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メリーの居る生活 六日目(後編) 4スレ目 311 作: ◆Rei..HLfH. 『メリーの居る生活 五日目 前編・後編』の続編 メリーの居る生活 六日目からの続き 「咲、あそこじゃない?」 「えーっと…そうね、間違いなさそう」 パンフレットを頼りに勝手知ったる校舎を歩く咲。 「ところで、あの中で何をやってるの?」 「行ってみてのお楽しみってね。早く行きましょ」 小走り気味な咲を追いかけて、私もその教室に向かった。 「…ナニコレ」 「友達が部長やってる演劇部の出し物なんだけd―――え…」 私と咲はその教室の前に来るなり絶句した。 「…メイド喫茶って思いっきり書いてあるね」 「おかしいなぁ…ファンタジー喫茶って言ってたのに…」 廊下からの外見も妙な装飾がされ、入り口には『おかえりなさいませ ご主人様♪』と書かれたプレートが掛けられている。 「結構並んでるね…」 「め…珍しいからじゃないかな?」 客層はさすがに男子生徒が多いものの、女子生徒も混ざっている。 「どうする?並ぶの?」 「いやー…。メイド喫茶に堂々と入っていく委員長補佐も微妙じゃない?」 「うーん…」 私達が他の場所に行こうかとパンフレットを広げた時、中から出てきた一人のメイド―――もとい、女子生徒が咲に気づいた。 「あ、咲ー」 「え?あ、雫ちゃん…。すごい格好してるね」 「へへ~ん、可愛いでしょ?」 「可愛いっていうか…何というk――――」 答えに迷っている咲に、この雫という人は詰め寄って、もう一度、今度は重い声で聞いた。 「可 愛 い で し ょ?」 「う、うん、可愛い可愛い」 「でしょ~?結構気に入ってるんだよー」 「あはははは…」 咲が乾いた笑いで相槌を打つ。 「…………………」 「………。この生意気そうな娘は何?」 「あ、この子はメリーちゃん。メリーちゃん、この人は雫ちゃん。私の友達で演劇部の部長なの」 「…よろしく」 他愛もなく挨拶をする。 「ふーん…。結構可愛いわね」 「!?…そ…そうね、それじゃ、メリーちゃん他の出し物行こうか?それじゃ、またね雫」 「…?」 咲が慌てて私の腕を掴み、ここから離れようとする…が。 ガシ!! 「そんなに慌てないで、お茶でもどう?」 「あははは…遠慮します…」 「それじゃ、メリーちゃんだけ、こっちにいらっしゃいな」 「あぁ、メリーちゃんをそっちの世界に連れて行かないで!!」 「………?」 訳が分らない。一体何をしたいの? 「大丈夫よ、ちょっときてもらうだけだから」 「それがダメなのよぉ…」 「固いこと言わない、ね?いいでしょ、メリーちゃん」 「…?」 咲の方を見る。 (ダメって言っていい?) (言ったらひどいことされちゃうかも…) (…………) アイコンタクトでダメだと言われる以上、相当な被害があるのだろう。 仕方なく私は承諾する事にした。 「…わかった」 「じゃ、決まりー。ささ、こっちに来て来てー♪」 「変なことしないでよねー!!」 「何着せようかなー」(聞いていない) 「…………はぁ」 私は、雫にズルズルとメイド喫茶に引きずり込まれていった。 ―――――――――――――――― 「……はぁ」 あれから17度目のため息。 「やっぱり断って逃げた方がよかったかも…、うんって言ってひどい目にあってるんじゃねぇ…」 「何で私がこんなことしなきゃいけないのよ…はぁ」 今私は、彼女が――――雫が着ていた物と同型の服を着ている。 そう、いわゆるメイド服。 私が着ていた服は、雫率いる演劇部の連中に奪われ、やむなく彼女達の【お願い】とやらを聞く事になった。 ―――――――――――――――― メイド喫茶に連れ込まれた私は、雫に連れられ、奥の個室に入った。 『今年は、このメイド喫茶で今年一番の売り上げを掴みたいの。だ・か・ら♪』 『な…、何?』 バッ!!と私の目の前に、メイド服を突きつける。 『これ着て、学校を歩き回って宣伝してきて?』 『…………(呆然)』 『ということで…、出てきなさい!!』 『はーい!!』『はーい!!』『はーい!!』『はーい!!』 返事もしていないのに、四方八方から女子部員が個室に侵入してくる。 『え!?え?いや…!!ちょっと、変なところ触らないで!!いやーーーー!!』 『にょほほほほ。それじゃ、頼んだわよー』 ―――――――――――――――― 「それ着てうろついてれば返してもらえるんだし、気にしない気にしない。ね?」 「人事だと思って…」 …とりあえず棒は死守できた。 騒ぎを起こすなとは言われてるけど、護身用として持つなら問題ないと思う。 「あはははは…。あ、何だろあれ?」 「え?………何あれ」 はるか前方に見える、青色の巨大な二足歩行型草食動物。 つまり、青い大きなウサギが教室の前で、ブンブンと手を振っている。 「ねぇ、メリーちゃん。あれって、着ぐるみだよね?すごーい…」 「うわ、気持ち悪…」 「私達のクラスじゃチョコバナナだけなのに、他のクラスって頑張ってるねー」 「何やってるのかな?」 私達は、懸命に手を振る青ウサギがいる教室に歩いていった。 「………ねぇ、この学校ってさ…」 「うん、分ってる。でもね?今年だけだよ?いつもは平凡すぎてつまらないくらいの文化祭だよ?」 「今年は当たり年なんだ…」 青いウサギが、わざとらしいジェスチャーで、曲げた腕の肘から先を横にしたり立てたりしている。 そのウサギのジェスチャーが伝えたい事は、教室に大きく、かつ自信に満ちた字で張り紙に書かれていた。 【ファンシー・アーム・レスリング!!】 「アームレスリングって、腕相撲のことだよね?」 「そうだね…。ねぇ、ちょっと中見てみようよ」 咲が、突然おかしなことを言いだす。 それは私だって興味が無いって言ったら嘘になるけど、中に入って見ようなんて思わない。 「えー…つまらなそうだよ?」 「でも、中でどうやって腕相撲してるか見たくない?」 「それは気になるけど…」 「じゃあ、入ってみようよ。つまらなかったら出ればいいことだし。ね?」 ここまで言われちゃったら、断るのも悪いか…。 「つまらなかったら、すぐ出るからね?」 「それじゃ、入ろっか?ウサギさん、案内して」 さっきの着ぐるみに案内してもらい、私達はその教室の中に入っていった。 「――――――…ふむ?」 二人が教室の中に入っていくのを偶然見かけた男は、2.3度うなずいて、その教室に近づいていった。 ―――――――――――――――――――――――― 一方、メリーが演劇部の女子部員に襲われている同時刻。 「いらっしゃいいらっしゃい!!今のブームはチョコバナナ!!食わなきゃ時代に乗り遅れるよー!!」 教室内にけたたましく反響する声にイライラしながら、僕は灼熱地獄のプレートを使って、チョコを溶かしていた。 「うるさい…、ただのセール品バナナに業務用チョコを塗りたくっただけだろ…」 今のグループは、僕と俊二を入れて5人の男どもで営業している。 華が無いので、余計暑苦しい。 「精進足らんぞ小僧。それ程のことで心を乱すとはな」 その中の売り子として大活躍中の俊二が、僕を嗜めるように言う。 「うっさい、この暑さと単純作業に加えて、あの騒音。やってられんよ」 「ま、確かに教室で客呼びしても効果は今ひとつだろう。だが、静かな店よりはマシだろ?」 「楽しそうだな…お前達」 恨めしそうに睨む。 さっきからうるさい客呼び1人 売り子2人(内の一人が俊二) 雑用1人(バナナを売り子に渡したり、キッチンの仕事やったり) 全員が全員楽しそうな顔して言いやがる。 「いやぁ、中々忙しくてやりがいのある仕事だな」 「まったく、メニューはバナナだけだから、ファーストフードのバイトより楽でいいわ」 「思いっきり大声出す機会なんて、カラオケ以外じゃ早々ないからな。爽快だぞ?」 「と、皆思い思いに職務を楽しんでいるわけだ。お前は不満があるみたいだな?」 ……ここでぶーたれてたら、ただの子供だな。 「…チョコ溶かすのって、すっげぇ楽しい」 あくまで棒読み 「ノリノリだな料理長。そのまま頑張ってくれ」 「チョコをぶっ掛けられたくなかったら、黙ってろ」 殺意を帯びた目で俊二を睨む。 暑さで気が立ってるんだよ。 「おお恐い。俺、小休憩がてらちょっとぶらついてくるわ」 「すぐに戻って来いよ?ピーク過ぎたみたいに客いなくなったが、またいつ来るか分らんからな」 「看板娘ならぬ、看板美形がいなきゃ客も集まらん。安心しろ」 「バナナの皮を食らえ」 近くの生ごみ入れから、バナナの皮を掴み投げつける。 「無駄だ」 ヒョイっと避ける。 「そんじゃ、行ってくるー」 「まったく…」 スタコラと教室から出て行く俊二。 他の奴らは、既に脱力モードだ。 ちゃんと作業してるのは僕だけか。…僕も休憩するか。 ―――――――――――――――――――――――― それから数十分経って、俊二が教室に戻ってきた。 …中に色々詰め込まれたビニール袋を大量持って。 「どうしたんだ?その袋。全部買ったのか?」 「聞いて驚け皆の者!!今年の最優秀委員長をこの俺が取ったのだ!!」 「な、なんだってー!!」 教室の中にいる全員(といっても、店員の僕らだけだが)が、耳を疑った。 何せ、今目の前にいる袋を持ったバカが、委員長の仕事をちゃんとこなしていたとは知らなかった。 実際、ほとんど委員長らしい仕事をした所を見たことが無い。 本当にやっていたとしても、他のクラスの委員長を越える成績を収めたなんて信じにくい。 「………咲に感謝するんだな」 俊二以外の全員が頷く。 「待て、それは俺が何もやらずに、咲に仕事を全部任せていたと言いたいのか?」 「そこまでは言わないでおこう、クラスメイトの情けだ」 またも全員で頷く。 「………俺ってそんなに信頼感薄いか?」 「いい評価として厚紙程度か」 「……ま、まぁいい。さっき校内でメイドとやらを見かけたぞ」 「…無理やり話し切り上げとは珍しいな」 「そんな日もある」 「そうかい…で、何で学校にメイドなんだ?」 「あぁ、他のクラスの連中だろ。なんたって今年の文化祭は、まさに祭り状態だ」 そんなにか…。 くそ、先に学校を回っておくべきだったな。 「山崎のクラスの出し物は知ってるか?」 「ん?山やんの所は…腕相撲するとか言ってたよな?」 「あぁ、山崎のやつ着ぐるみ着て腕相撲してたぞ」 「なんだそりゃ?」 意味が分らん。 腕相撲と着ぐるみと何が関係があるんだ? 「そのままの意味だ。名づけてファンシーアームレスリング」 「今年は当たり年なんだな…」 着ぐるみを着た山やんが、対戦者をバタバタとなぎ倒している姿を想像してみた。 …よし、自由時間に様子を見に行こう。 「ちなみに、その着ぐるみを倒したのは、一人しかいない」 「何!!山やんを倒す兵だと!?」 「あぁ…、それもさっき話したメイドにやられてた…」 …マジかよ。 「そのメイドって、男か?メイドでガイなのか?」 「いや、女だ。しかもお前がよく知ってるやつ」 「………誰だ?」 僕はメイド服を着そうな知人をリストアップした。 …該当件数ナシ。 俊二に聞いても、含み笑いを浮かべるだけで答えなかった。 山やんの様子見るついでに、その知り合いとやらの名前を聞いておこう。 その間キチンと勤めを果たすか。 僕は固くなり始めたチョコを溶かすために、電気プレートの電源を入れた。 ―――――――――――――――――――――――― 「メリーちゃんすごーい!!」 「着ぐるみなんか着てる奴になんか負けないわよ」 私と咲は校庭を歩いている。 今度は校庭の出し物(主に飲食店)の食べ歩きで意見が合致したので、来たわけだ。 「それで、まずはどれから行くの?」 数十にも及ぶ露店を見渡し、隣にいる咲に訊く。 「片っ端ってどう?憧れてたのよねー。片っ端」 「いいんじゃない?どれもおいしそうだし」 「だよね?だよね?よーし、それじゃ、今日は体重の事は気にしないで、ジャンジャン食べよー!!」 「体重か…最近測ってないかな…」 「食べる前から気にしてたら楽しめないよ?さあ、行こう!!」 「わっとっと……」 咲に手を掴まれ、一番端の店に向かう。 最初の店は焼きそば屋だった。 私と咲は一つずつ貰った。 店員が水もいるかと聞いてきたが、邪魔になるので断った。 二軒目に行く前に早速食べる事にした。 「あ~…もうお腹一杯…」 「え、まだ五軒目だよ?」 四件目のタイヤキをクリアした時点で、咲がフラフラになっていた。 私はまだ平気なんだけどな…。 「う~…、とりあえず貰っておこうかな…」 トボトボと歩き出す咲の後をついて五軒目に行く。 五軒目はたこ焼きだった。 「これなら自分のペースで食べれるよね…」 「あんまり無理しない方がいいよ?」 「だって、せっかくタダで食べれるんだし、もったいないじゃない」 「そうだけど…」 お腹壊しちゃうよ?と言おうとした時、この文化祭に相応しくない罵声が聞こえた。 「んだとゴルァア!!」 …近い。この校庭で叫んでる。 「な…何、今の?」 咲が辺りをキョロキョロと見回す。 さっきの声の大きさからすると、2列先の露店通りかな。 「さぁね?どこかのバカが何かやってるんでしょ。見に行く?」 「い…委員長補佐として、現場を見ておかなきゃ!!」 ちょっとパニクってる咲を従えて、私は声のあった通りまで走る。 (ちなみにたこ焼きは、咲の分を含めて全部私が食べた。少し粉っぽかった) 校舎に近いその通りには遠巻きだが、人だかりが出来ていた。 「ちょっとすいません…通してください…通して…!!いたたた…」 咲に道を開けさせ、人だかりの中に混ざる。 「んぐ……、すいません…あ、ごめんなさい…ううぅ…」 咲ファイト。 「メリーちゃんも手伝ってよー…」 何とか(私が)無事に人だかりを抜ける。 「あー店員が絡まれてるんだ。何したのかな?」 「はぁ…はぁ…はぁ…」 咲は肩で息をしていて、返事は期待できそうにない。 私は改めて騒ぎの本を見る。 どうやら4人組の不良が、焼きトウモロコシ屋を恐喝しているようだ。 「何で俺のトウモロコシだけ生焼けなんだよオイ!!」 「す…すいません!!すぐに取り替えます!!」 「あぁ!?弁償だろ弁償?違うかぁ!?」 「え…な、なんで…」 「うるせえ!!ゴチャゴチャ言ってねえで、弁償しやがれ!!」 「ひ、ひー…」 「……………」 何だろう…。 嫌な気分…。 『ここでは、騒動を起こさないようにしてくれ。頼むから』 隆一が言っていたことは、出来るだけ守りたい。 でも…。 「ち、ちょっと!!あ…あな…あな…あななたたち!!」 え!? 私が迷っている間に、咲が不良相手に大声で注意した。 「た…他校の生徒なら…えっと…もっとマナーを守ってください!!」 「それ以上、恐喝紛いの行動を取るなら、警察を呼びます!!」 不良が、咲を見て固まっている。 「第一、他の学校は授業をやっているはず、何故他校のあなた達が本校にいるのですか!!」 咲がどんどんと相手を追い詰めるマシンガントークを放つ。 「…咲?」 「貴女は黙ってて!!」 「は、はい!!」 …人格変わっちゃってるー。 「他校から来た事には目を瞑りましょう、ですがマナーを守らないのであれば、本校から強制退場としますよ」 「う、うるせーぞこのアマぁ!!」 「阿魔とは何ですか!!私は注意をしているのですよ?あなたたちに阿魔呼ばわりされる筋合いはありません」 「…一度痛い目にあいたいらしいな。女だからって容赦しねえぞオイ」 不良全員が先ににじり寄ってくる。 「咲、下がって!!」 私は咲をかばうように前に立ち、棒を構えた。 「ん?お前はこの前の…」 「あ、あの女じゃね?」 「あの山崎って奴と一緒にいた女か」 「そういえば山崎の学校だったな」 不良達は4人で話し出す。 そうだな。などと話を区切り、全員で私を睨んでくる。 「まぁいい、この前のお礼参りだ。さっきも言ったが女にも手加減しねえからな」 「…………」 「どうした?なんとか言ったらどうだ?」 「いや、あなた達誰?」 「な…んだとゴルァ!!」 二度目の咆哮。 あーあ…。騒ぎ起こしちゃった…。 ゴメンねー隆一。 ―――――――――――――――― 「煉れば煉るほど色が変わって、こうやってつけて…あづぅー…」 もう今年中はチョコの匂いもかぎたくない。 「なぁ、俊二…なんかこう、暑さを紛らわせるトークしないか?」 「鍋の話はどうだ?」 「死んでしまえ」 「おーい、外で面白い事やってるぞー」 廊下から休憩しにいった客呼び係が、帰ってくるなり速報を伝えてくれた。 「お?」 「ん?」 「みんな外見てみろよ。結構ギャラリーもいるぜ?」 呼ばれるままにフラフラと教室に出る一同。 売り場には誰もいなくなるが、客も来ないから平気だろう。……多分。 誰が来ても言いように、教室に休業の張り紙を張って僕も外に出た。 「んだとゴルァ!!」 を?と間抜けな声を出して、窓に近づく。 食い物屋が並んでいる校庭で、人だかりが出来ている。 乱闘騒ぎの類か。野次馬としての血が騒ぐ。 「えーっと…焼きトウモロコシ屋がやられてるな…」 「あれ?あそこに立ってるのメリーか?」 「…あぁ、どうやらそうらしいな。後ろに咲もいる」 二階の窓からだからすぐわかる。 四人の不良を前に、メリーがあの棒を構えて咲を守っている。 「騒ぎを起こすなってのに…俊二、止めに行くぞ」 走って廊下に向かう。 「待て、走っても間に会わないぞ!!」 が、俊二に呼び止められる。 確かに走って向かっても間に合いそうは無い。 「でも、他に行ける所が無いだろうが!!」 「常識で考えるな若造が!!」 言うが早いか、俊二は僕の胸倉と腹辺りを掴んで―――――。 「飛べ」 「え?」 ―――――――外に向けて投げた――――――――。 「ぎいいいいいいいいやあああああああああああああああああ!!!!!」 宙を舞う男子学生。もはや文化祭で一番のイベントになっただろう。 それにしても恐ろしいほどスピードが出てる。どこにあんな力が蓄えられてるんだ? 僕は成す術もなく、万有引力に従い地面にどんどん引き寄せられた。 ドカッ!! 「うおっ!!」 「まぎゃ!!」 「ぶべら!!」 「しぎゃ!!」 僕は猛スピードで不良に突っ込んで、無事着地した。 …なるほど。 あの野朗は僕を不良に投げつけて、攻撃とクッション代わりにしたのか…。 ……すっげぇ痛ぇ。あとで殴ってやる。泣くまで殴るのやめねえぞ。 「うおーい。そのまま二人を連れて校舎裏に逃げろー」 あのバカが2階から指示を出してくる。 「いってぇ…」 何とか立ち上がる。…幸いケガはしていないらしい。 「メリー、大丈夫か?」 「私と咲は平気、それより…あ、あんたこそ大丈夫なの!?」 「心配するのは後にしてくれ、とにかく逃げるぞ」 「ば…私は心配なんt―――――」 「それもいいから、さっさと逃げる!!ほら、咲も着いてこい!!」 「う、うん!!」 僕達は、一目散で校舎裏に向かって走った。 「待てやコラぁ!!」 50メートル程走った所で怒声が聞こえた、そのまま気絶してくれてれば助かるんだけどな…。 「やば、気が付いたんじゃない?」 「僕の直撃食らったんだ、すぐには動けないだろ」 「自慢になってないかもー」 「自慢じゃねえ!!」 勝手知ったる校舎裏を疾走する。 「メリー!!」 「何!?」 「言っておくが、これは戦略的撤退だ、逃げてるわけじゃないぞ!!」 「わかってるわよ!!そんなこと!!」 「そこは排水溝開いてるから飛び越えろ!!」 走りながら教えて、ジャンプする。 「…ッ!!」 メリーは軽々と飛び越える。 「え、えい!!」 咲も危なっかしくだが、飛び越える。 そこからさらに数メートル走ったところで俊二が手を振っていた。 「こんの野朗!!」 そのまま走りから、殴りかかる スルリとかわされる。 「甘い。遊んでる場合じゃないぞ、早く入れ」 俊二は裏口を指している。 ここから校舎に入れるのだ。 咲は言われたとおりに校舎に入る。 メリーも続いて中に入っていった。 「…ふぅ。で、この後どうするんだ?」 「お前も中に入れ。後は俺と―――」 「お前と?」 俊二の背後からヌッと大きな影が現れる。 「このファンシー腕相撲元チャンプのシルティが引き受ける」 …カエルの着ぐるみが立っていた。 「ま、シルティが危なくなった時に俺が出る予定だ」 「わかった、気をつけろよ」 「咲にチョコバナナの店番を頼んでおいてくれ」 「あいよ。じゃな」 「おう」 僕は校舎に入り、ドアを閉めた。 二人は階段に座っていた。 「おつかれーい」 「はぁ…はぁ…はぁ…」 咲は話せそうに無い。 「俊二は?」 メリーは相変わらず、息を乱していない。 「シルティと一緒に戦ってる」 「…シルティ?」 「気にするな。咲、俊二がチョコバナナ頼んだってさ」 「え!?そ、それは遺言!?」 乱れた呼吸を整えつつボケをかます。 「どこのアホが、そんな意味の解らん遺言を残すか」 「あ、そっか…」 天然かよ。 「そ…それじゃ、私教室に戻ってるね…」 咲がフラフラと階段を上がっていく。 「ところで…、何だその服?」 ずっと気になってた。なんでメリーがメイド服なんて着てるんだ? 「好きで着てるわけじゃない…」 「メリーがメイド服着てるってことは、山やんを倒したのはメリーって事か…」 なるほど、納得。 「何一人で納得してるのよ」 「いや、なんでもない。…さて。メリー一緒に文化祭回るか?」 「え?」 メリーが、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をして驚く。 「いや、咲が帰っちゃったから代わりに僕が一緒に行くってこと」 「……しょうがないわね。いいわ、行ってあげる」 「へいへい。それじゃ、一旦教室に戻って他の奴らに伝えに行かなきゃな」 「あ、私チョコバナナ食べてない」 「そういえば来てなかったな。よっしゃ、ついでに食ってけ」 「言われなくても、食べるわよ」 僕達も階段を上がり、教室に向かうことにした。 教室に向かう間、メリーの姿を改めてみてみた。 普通に歩いてるはずなのに、フワフワと揺れるスカート。 モノクロのツートンカラーがシンプルで落ち着いた大人っぽい感じに加えて、フリルがついて女の子らしさもアピールしてる。 「…意外と似合ってるな。かわいいわ」 「!?」 あ、やべ、声にして出しちゃった。 「………」 「………あ、ありがとう」 カウンターをくらった。 どう反応していいかわからず、僕とメリーはお互い無言で教室に歩いていく。 ガラガラガラガラガラ 「ういーっす」 「おかえりー」 「俺はもう今日は終わりでいいか?」 一番近くにいた雑用係りに話しかける。 「あぁ、もう大丈夫だろ。な、咲」 「そうだねー。後は私達で足りると思うよ」 「だとさ。おつかれさーん」 「おいおい、ずいぶん淡白だな…。なあ、咲。帰る前にメリーにチョコバナナ一本おごってやってくれ」 「うん、わかった」 咲が用意していた串刺しバナナにチョコを塗り、トッピングをかけてメリーに渡す。 「ありがと」 「サンキューな」 「ううん、いいの。こっちこそさっきはありがとね」 「あれは俊二のした事だ。礼を言うなら俊二に言え」 「アハハハ」 「それじゃ、俺は帰るわ。またなー」 「おーう」 「またねー」 「おつかれー」 「じゃーなー」 クラスメイトの声を背に受けながら、帰ろうとした―――――――その直後。 「キャ!!」 「!?」 メリーが何かを踏んで、滑った。 ドサッ!! 「っ!!大丈夫か?メリー」 転倒する直後、僕の改心の動きで倒れるメリーを受け止め、大事には至らなかった。 「メリーちゃん大丈夫!?」 「…び…びっくりしたぁ…」 驚いたのはこっちだ。 メリーを立たせて、足元を見る。 「やっぱりな、バナナの皮だ」 原始的かつ有効的なトラップツールが机(テーブル代わり)と机の間で息を潜めていた。 「ったく、誰だよ、こんな所にバナナ落とした奴は」 「あれって、隆が俊二に投げたバナナの皮じゃ?」 「あ、俺もそう思った」 「じゃあ犯人って…」 「そこでボソボソ話してる野朗三人組シャラップ!!」 忘れてた。…犯人は俺か。 「…?どうしたの?」 どうやら被害者の耳には届いていなかったらしい。 「いや、なんでもない」 「アハハハハ…そうそう」 …咲には聞こえてたか。 「バナナは無事か?」 「大丈夫。上に向けてたから」 なんて執念だ。 今、僕とメリーは教室から出て、廊下を当てもなく歩いてる。 すぐにバナナを平らげたメリーは、こんな事を言い放った。 「さて、次は何食べようかな」 「…太るぞ?」 「……………」 あれ?黙った? 「もしかして…怒ったか?」 「ねぇ、隆一…」 「は、はい!!」 「その…さっき、…私を抱きかかえてくれた時、あの…重く…なかった?」 「へ?」 思わず素っ頓狂な返事をする。 「…………」 メリーはうつむいてしまっている。 とっさのことで重さなんて覚えてないよな、普通。 「…重くは無かったな」 「本当?」 「ま、まぁ…な」 笑顔でこっちを見つめる。 ちょっとドキッときた。 「よーし、これで思いっきり食べれるわ!!」 何ですって? 「途中から中断しちゃったのよねー。食べ歩き」 待て待て待て待て。 「姐さん、サイフの中身の尊さを知ってくれないか?」 「金は使うためにある!!行くわよ隆一!!いざ校庭へ!!」 いきなり元気になったかと思うと、メリーは全速力で階段へ走っていった。 「な、おま…!!ちょっと待てええええええええええ!!」 僕はそいつを全力で追いかけて、その間に出来るだけ無駄使いを食い止める手立てを考えるのだった。 エピローグ 「あー面白かった!!」 メリーが満足したように言う。 文化祭が終わりに近づいた頃、僕とメリーは学校から出て家に向かっていた。 理由は文化祭の後片付けから逃れるため。と、軍資金が尽きたからだ。 うちの学校は、後片付けに関しては係などという境界線は存在せず、近くを歩いている学生を片っ端から捕まえて手伝わさせる。 それを危惧した僕は、学校から名残惜しがるメリーを連れて早々に去ったのだ。 言うまでも無いが、学校を出る前にメリーの服は取り返した。 雫達のところに赴き、着替えさせたのだ。 …店で変な目で見られたがな。 「サイフが軽い…」 元から軽かったサイフが余計に軽く感じる。 アルミで作られた硬貨とサイフ自体の重さしか残っていない。 「はぁ…」 明日から帰り道は寄り道なしだな…。 ―――――――――――――――― 咲と一緒にいた時に感じた物足りなさ。 あれの正体が解った気がする。 一度歩いた校舎が、隣に居る人が違っただけでこうも変わる物なのかと驚いたほどだ。 楽しかった。……ううん、嬉しいに近い感情。 その感情を誤魔化すために、いろいろな所を回った。 ちょっと歩いただけなのに、もう隆一は溜息なんてつくくらい疲れているようだ。 もっと鍛えてあげなきゃ…!! ―――――――――――――――― 「ん?」 商店街を抜けたところで、以前見たような、見なかったような4人組が道をふさいだ。 「………さっきはよくもやってくれたな…」 さっき…? 「お前があの時降ってこなけりゃ、この女を痛めつけてやったのによ…」 「あ、あの時の不良か」 何故か生傷だらけの不良4人組は、懲りもせずに僕らを待ち伏せしていたらしく、何故か怒りの矛先は僕に向けられていた。 「とにかくこっちは腹の虫が収まらねえ、お前を叩きのめしてスッキリさせてもらう」 あはははは…洒落になってねえよ。 今は山やんも俊二もいない。 今度ばかりは絶体絶命か―――――。 「あら、あんた達…また会ったわね」 …あ、最終兵器が。 「あん?(三度目)」 不良の見た先には、腰に手を添え、ちょっと怒りのオーラ的な雰囲気を漂わせる我らがメリーさん。 ヤバイ、何があったか知らんが、この殺意だと殺しかねん。 ツカツカと僕の前まで歩を進め、立ち止まる。 「あーメリー?何があったか知らんが、ここは―――――」 「ねえ、隆一?」 メリーがゆっくり振り向く 「………」 「正当防衛って事で…。学校内じゃないし、人気も無いから、大丈夫だよねぇ?」 嗚呼、笑顔の裏には般若の顔が…。止めたら被害が僕のほうにも来るよ…コリャ…。 「…死なない程度に」 「さすが、話がわかるわね…」 「おい、シカトしてんじゃねえよ!!」 シュル…カチャカチャ… 「あぁ…、夕日が綺麗だ…」 放送規制が入るような効果音を背中で聞きながら、過ぎ去る今日のお天道様を見つめて、僕は溜息をついた。 拍手っぽいもの(感想やら) 最後に、不良に向かって「・・・私メリーさん。今あなた達の前にいるの・・・」とか言わせてみたい -- (砂) 2010-02-26 19 45 45 名前 コメント すべてのコメントを見る
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メリーの居る生活 クリスマス特別編3前編 作:◆Rei..HLfH. 何のことは無い、いつもと変わらない、土曜日。 場所はリビング。時は昼の少し前。 僕が紅茶を飲みながら、コタツに入って暖をとっていると、ドタドタとメリーが満面の笑みでリビングに入ってきた。 「隆一、積もったわよ!」 「知ってるよ。朝起きて最初の言葉がそれかよ…」 いつもと変わらない日常。変わったところと言えば、家に居ても身震い出来る、この凍てつくような寒さと…。 窓の外の一面の銀世界。 前日に張り切った雪雲の置き土産が積もりに積もった庭を見て、メリーは目を輝かせている。 「雪なんていいもんじゃないぞ…。寒いし滑るし白いし雨よりタチが悪い」 「まったく、夢の無いこと言うわねぇ。この景色見て、何も感じないの?」 メリーが雪の敷き詰まった庭を指差す。 足跡一つ着いていない雪のカーペットは、子供の頃の僕なら、我慢できずに飛び込んでいたことだろう。 「いや、特に何も」 「いつも子供みたいな事言ってるのに、こんな時だけ爺臭いんだから…」 「そういわれると思って、今日は玉露茶じゃなく、紅茶をチョイスした。爺臭いとは言わせないぜ」 「紅茶なら私も飲むわ。淹れてくれる?」 「コタツ出たくないんだけど?」 「あら、爺臭い」 「くそー…」 まんまと言い包められ、いいようにメリーに使われるハメになってしまった。 「私の専用のカップねー」 「やれやれ…。今日一日こんな調子じゃ、休みもできないな」 聞こえるように愚痴を言ってやる。 もちろんメリーは聞く耳を持たない。 …というより、何か考え事をしているようだ。 「折角雪が積もってるのに、何もしないって勿体無いわね…」 ボソッと窓の外を見ていたメリーが呟いた。 「さあ、始めるわよ!!」 「本当にやるの?ねえ、寒くて鳥肌が立ってるんだけどさ」 出された紅茶を早々に飲み干したメリーは、突然「特訓するわよ」と言い出した。 どうやら、以前河原でやった雪合戦をモチーフにした特訓を思いついたらしい。 反対の声はまったく聞き入れられることはなく、敢え無く僕は庭に放り出されてしまった。 「体動かしてれば暑くなるわよ!」 「せめて上に何か羽織るものを」 「動きにくくなるでしょ。ダメよ」 メリーは僕の提案をピシャリと払い、せっせと足元に雪玉を作っている。 自分は温かい格好して手袋までしてるってのに、僕の防具はトレーナーと肌着の二枚だ。 「うぅぅ…寒い…。風邪引いちまうぞ…」 「うん、これくらいでいいでしょ。いい、今から雪玉をどんどん投げるから、それを避けるのよ」 「わかったわかった。いいからさっさと始めよう」 「ただし、前みたいに軽い投げ方じゃないわよ。当たったら怪我する覚悟でね」 「…何?」 そういうとメリーは、僕の後ろの塀を指差し、そこに拾い上げた雪玉を投げつけた。 雪玉ってさ、よほどサラサラな雪じゃなきゃ、壁にぶつかるとベチャって雪が半分くらい壁に張り付く物だよな? でも、メリーの投げた雪玉がさ、塀にぶつかった瞬間に見事に飛散して、塀には雪のぶつかった跡が残ってなかったんだ。 これって、威力何キロあるんだろう。万が一ぶつかったらどれくらいの怪我ですむのかな。 「それじゃ、行くわよー」 「え!?まだ心の準備が」 「そぉれい!!」 「ぃい―――!?」 あの剛速球が僕めがけて飛んでくる!! とっさに姿勢を低くしてそれを避けると、雪玉は塀にぶつかり、跡形もなく砕けた。 「その調子、どんどん行くわよー」 「ひいいいいい!?」 情け容赦の無く、僕に降り注ぐ雪玉の雨あられ。 いつになく楽しそうなメリーは、僕を休ませる間もなく次々に雪玉を繰り出してくる。 投げられる雪玉のストックはメリーの足元に山ほどこしらえていて、あれが全部投げ終わらなければ、休憩は許されないだろう。 これじゃ全部投げ終わる前に僕が風邪を引いてしまう。 もうすぐクリパがあるってのに、そんなのはごめんだ。 何とかしないと、何とかしないと。 しかし頭で考えている余裕もなく、飛んでくる雪玉を避けるだけで精一杯だ。 雪玉を避けながら雪玉を作って反撃?いや無理だ。考えるだけで精一杯なのに、余計な行動は取れない。 隙を見て家に逃げ込む?捕まって外に投げ出されるのがオチだ。 説得?特訓中にそんなことしたら、さらにしごかれるな。 必死にいくつか作戦を並べてみたが、どれもアテには出来ない。 こうなったら風邪引かないように祈るだけか。 「って、うお!?」 しまった!! 考える事に気を取られて、僕は足を滑らせてしまった。 すっ転んでいる所を待ってくれるメリーではない。 メリーは動けない僕に更なる追い討ちをかけるだろう。 あいつの事だ。この機に乗じて、何個もの雪玉を一斉に投げつけてくるだろう。 「チャンス!!食らいなさい!!」 「…ッ!!」 動きを。 考えを。 ――――――――予測しろ。 ザザッ!! 「え!?あの状態から避けた!?」 「………」 「…隆一?どうかしたの?」 「………」 「まさか…、防衛システム作動しちゃった…とか?」 「………」 「そうみたいね。あの時以来か…。あなたの直感力と動体視力の限界、試させてもらうわよ」 「………」 「…まったく、何か喋ったらどうなの…よ!!」 ヒュン! 「………」 「…これならどう!」 ヒュン!ヒュン! 「………」 「まだよ!!」 ビュン!! 「っく、小憎たらしい!!……何よ、急にしゃがみ込んで。どこか怪我でもしたの?」 「………」 サクサク 「…雪玉なんか作って、私に反撃でもするつもり?」 「………」 「そんな余裕なんて与えないわよ!」 ビュン!! 「………ッ」 ヒュン 「キャ…!!…って、どこ投げてるのよ?私はもっと下よ!」 ビュン!! 「………」 「動きが大味になってるわよ!!」 「………」 「嘘!?いつの間に雪玉を!!」 ヒュン! 「…一体どこに投げてるって言…」 「――やべえ!?メリー!危ない!!」 「…え?え!?」 ドサッ!!ドサドサ…。 完全に僕の思慮が足らなかった。 防衛システム…。余計な考えの一切を捨て、相手を無力化させる事を最優先し実行する状態。 それがメリーの追い討ちを避けようとした拍子に働いてしまった。 メリーが屋根下に陣取っていたのをいいことに、屋根に積もっている雪を落として被らせれば頭も冷えると考えた。 しかし、衝撃を与えた雪は僕の予想よりずっと多い量がずり落ちてきた。 屋根から落ちてきた大量の雪は、人間の首も簡単にへし折る。 雪の落ちてくる量なんて、調節できるわけが無い。なんて愚かな考えだったんだ。 屋根から雪がずり落ち始めた瞬間、僕は我に返った。 僕は叫びながらメリーに駆け寄り、覆いかぶさるようにメリーを庇った。 「り、隆一…?」 「わりぃ…、大丈夫か?怪我はないか?」 「う…、うん。大丈夫」 「よかった…」 「は、早くどきなさいよ!背中の雪…」 「あぁ、そうか。よ…っと」 僕の背中の雪がメリーにかからないように、ゆっくり立ち上がる。 「まったく、無茶するわね…」 「あぁ、ちょっとやりすぎた。ごめんな」 「もういいわよ…。ん…」 立ち上がるメリーに手を差し伸べる。 メリーは手を取り、立ち上がると、雪にまみれた背中を軽く掃った。 「私の背中もびしょびしょに濡れちゃったし、特訓は終わりね」 「え、もういいのか?」 「仕方ないわよ。やっぱり寒いし、あんたの特訓の成果も見れたことだしね」 「成果…か。次から気をつけなきゃな」 「寒いわ…。シャワー浴びて温まらないと…」 「風呂が温まってるはずだ。すぐには入れるぞ」 「そう、用意がいいわね」 「メリーが起きてくる前に僕が入ろうとしたんだが…、僕は大丈夫だから先に入りなよ」 「悪いわね。そうさせてもら…クシュッ!!」 玄関に向かう途中、メリーは実に可愛らしいクシャミをした。 背中が濡れてるおかげで体が冷えてしまったようだ。 「おいおい、風邪引くなよ?」 「…大丈夫よ。それより、お風呂覗いたら――――」 「解ってるって。早く入ってこい。着替え用意しておくから」 「…下着はどうするつもりなの?」 「…指示してくれれば持ってくる」 「余計な事はしないでリビングにいなさい。いいわね?」 「御意」 何はともあれ、なんとか体が冷え切る前に家に戻ってこれた。 メリーはしばらく風呂から出てこないし、こっちは紅茶でも飲みながらコタツで暖を取るとしよう。 あ、メリーが出てくるタイミングにあわせて紅茶を淹れてやろう。 中と外から暖めてやれば、全身ポカポカで風邪も引かないだろう。 「…ん?」 しばらくして、ジャパネットタナカのよく喋る社長を観察していると、廊下をパタパタ走る音がした。 怪奇現象!?…というわけでもなく、着替えも持たずに風呂場に入ったメリーが、タオル一枚で僕の部屋から着替えを持って風呂場に戻ったところだろう。 都市伝説の看板であるメリーさんが、タオル一枚だけを羽織って廊下を走ってると考えれば、十分怪奇現象だが…。 だから僕はこうやって、自分の部屋に戻る事は許されずリビングにいることを強要され、暇な休日のテレビを眺めていたのだ。 しばらくすると、更衣室の扉が開く音がした。メリーの着替えが終わったようだ。 僕はメリーに紅茶を入れた旨を伝えようと、廊下に出た。 「う…!な、何よ!!」 「…?いや、紅茶入れといたぞ…って」 メリーは服さえ着ているが、何故か体を抱えるように、胸の部分を隠している。 はて?今更メリーの胸を意識はしていないんだが。そんなに立派な物でもないし。 「どうかしたのか?」 「なんでもないわよ!早くリビングに戻ってなさい!!早く!」 「え?あ、あぁ…」 わけもわからないまま、僕はリビングに押し戻された。 何なんだ?一体。 当のメリーは、さっさと僕の部屋に入っていった。 後をつけて様子を見に行きたい所だが、何故か物凄く死亡フラグ…いや、その場でBADENDな予感がするので、もう少し社長を観察する事にした。 その日の夜。 知っての通り、僕とメリーは同じ部屋で寝ている(布団を敷くが、お互いが離れた所に。だ)。 いつもの位置に布団を敷き、ごろんと横になると、 「クシュン…!!」 部屋の隅で布団を敷いていたメリーが、今日何度目か知らないクシャミをした。 「…なぁ、それ風邪引いてるんじゃないのか?」 「違うわ。風邪なんて引いてられないわ」 「…まぁ、認めたくないのも解るが、とりあえず温かくして寝ておけ」 「そうする。掛け布団出して」 「自分で出せっての」 「爺臭い」 「…それ、今回で最後な」 メリーはいつもの布団にさらに二枚多めに布団を羽織らせた。 重くないのかと思ったが、当の本人はすぐに寝息を立てていた。 「おはよー…ゴホ…」 「…おはようさん」 昼少し前。 リビングでマンガを読み返していると、見るからに体調の悪そうなメリーが部屋に入ってきた。 「うゔ…頭痛い…。何かだるいし…」 「あちゃ。完全な風邪だな。そりゃ」 「最悪ー…」 「食欲はあるか?」 「ない…。喉は渇いた…」 そう言ってメリーはソファにヘタヘタと倒れこんだ。 珍しいな。こんなメリーは。 「確か500mlのスポーツドリンクが冷蔵庫に入ってたな」 冷たい物は飲ませていいものか迷ったが、とりあえず水分は取らせて布団に戻そう。 「ほれ。あと汗を拭いて、とりあえず昼飯は粥にするぞ」 「食欲無いってば…」 メリーはスポーツドリンクを飲みながら不機嫌に答える。 「風邪は引き始めが肝心って言うだろ。少しでもいいから栄養とっとくの」 「わかったわよ…」 粥か。久しぶりに作るが、上手く出来るだろうか。 卵のストックは…十分だな。よし。 「出来たら持ってくから、布団の中でゆっくりしてな」 「…すぐに作りなさいよ」 「任せとけ」 メリーはそういい残して、フラフラと部屋に戻っていった。 階段で転げ落ちないか心配だったが、さすがにそんなことはなかった。 …メリーの楽しみにしているクリスマスパーティは明後日。 それまでに熱が下がってくれればいいんだが。 「よし、こんな物か。…味は薄めの方がいいよな?」 水っぽくもなく硬くもなく、丁度いいとろみに仕上がった卵粥が出来た。 あとは水とタオルと茶碗…。あぁ、レンゲが無いと食べれないな。これでよし。 早速僕はこの粥を、メリーのもとに運んだ。 「メリー、粥作ってきたぞー」 「うん、ありがとう…コホ…」 部屋に入ると、メリーは大人しく布団の中に入っていた。 メリーは上半身を起こすと、そばにあった空のペットボトルを差し出した。 「スポーツドリンク…全部飲んでしまったわ…」 「あぁ、飲んだ水は汗なりトイレなりでどんどん巡回させるんだ。ガンガン飲め」 土鍋の乗ったお盆を傍に置くと、コップに水を注ぎメリーに手渡した。 メリーは何も言わずコクコクとその水を飲み干す。 「汗拭き用のタオル、枕の横に置いとくぞ。汗まみれじゃ気持ち悪いだろ」 「服の中も…気持ち悪いわ」 粥を茶碗に少なめに盛り移し、メリーに手渡す。 「何なら濡れタオルで体拭いてやろうか?」 「バカいわないでよ。そんなに弱っていないわ…」 「そりゃ残念。おっと、熱いから舌を火傷しないようにな」 「ん…、ふー…ふーコホッ!!ケホッ!」 メリーは粥を冷ますために息を吹きかけていたが、むせ返って咳き込んでしまった。 「おぉ、大丈夫か?」 「ケホ…、だ、大丈夫…コホ…」 「僕がふーふーしてやろうか?」 「もう、病人扱いして…。落ち着いて食べれないからどこか行っててよ…」 「あ、ごめん…。何かあったら携帯に連絡寄こしてくれ。すぐに行くから」 「………」 そう言い残すと、僕はメリーを残して部屋から出ることにした。 酷く不満そうな顔で言われたもんだから、退散せざるを得なかった。 別にからかってた訳じゃなかったんだが…。悪いことしたな…。 リビングに戻ると、僕は気を取りなおして次にメリーが望みそうな物を考えた。 風邪の引いた原因は、九割方僕のせいだろうし、日曜日だから時間も取れる。 今日と言う日曜日は、メリーのために費やそう。 それがメリーに対する償いだ。 「とりあえず、寝てるだけってのも退屈だし、何か雑誌でも買ってきて…」 確か今週は合併号で日曜日…今日発売だったな。丁度良いタイミングだ。 「あと、体の温まる物を飲ませるか。今作れるのはっと…」 簡単に作れる風邪用飲み物を脳内にリストアップしてから、冷蔵庫の中を探る。 生姜かレモンがあればベストなんだが…。 「まいったなぁ。卵酒くらいしか作れないか…」 雑誌買いに行くついでに、スーパーにでも寄っていくか。 しかし風邪のメリーを置いて家を出るのも、心配だな…。 おじいちゃんおばあちゃんは町内会の年末の集まりとかでいないし…。 メリーがまた眠ったら、買いに行くとしよう。 粥が冷めるくらい時間を置いて、再度メリーの様子を見にいった。 「どうだ、粥食えたか?」 「少し残しちゃったわ…」 横になっていたメリーは体を起こすと、傍に置いてある粥の残った茶碗と、空になった土鍋を指差した。 「上等上等。これだけ食えれば十分だ。頑張ったな」 「わざわざ作って貰ったんだもの。当然よ」 「気持ちは嬉しいが、無理してまで食べてなくてもいいんだぞ。逆に消化不良起こして体に悪い」 「む、無理してなんかないわよ…」 「それならいいんだが…。栄養も取ったことだし、とりあえず薬飲んで寝とけ」 「うん…」 風邪薬を飲んだメリーは布団に潜り、しばらくしてスゥスゥと寝息を立て始めた。 部屋の外から様子を窺っていた僕(眠るのに邪魔だと追い出された)は、メリーが眠った事を確認して、買い物に出た。 雪の積もった商店街は、いつもとは少し違った風景で、もう少しゆっくりと景色を楽しみたかったが、今回はそうは行かない。 まずはコンビニで雑誌をGETだ。 「いらっしゃいませー」 コンビニに入ると、他の売物棚には目もくれずに雑誌コーナーに向かう。 多くの立ち読み客の壁から、目的の物を見つけ手にとる。 『よし、これで雑誌は手に入ったな。あとはスーパーに行くだけだ』 「ありがとうございましたー」 「隆一くーん!」 さっさとレジで会計を済ませ、コンビニからスーパーに向かう途中、誰かが僕を呼び止めた。 「ん?…あ、咲か」 「こんにちわ!お買い物?」 後ろから追ってきた咲と会話をしながら歩く。 「よっす。ま、そんなところ。咲も買い物か?」 「うん、スーパーまで行くところ」 「それじゃ一緒に行こうや。僕もそこに用事があるんだ」 「うん、行こう行こう。あ、手でも繋いで行く?」 「お誘いは嬉しいが遠慮しておく。アイツに見られたら何言われるか解らんからな」 「ははは。あ、そういえば今日はメリーが一緒じゃないんだね?」 「あいつは今風邪で寝込んでるぜ?」 「ええ!?大丈夫なの?」 咲が人目を気にせず大げさに驚く。 「どうだろうな。一応、粥作って食わせて薬飲ませて寝付かせた」 「手作りのお粥を食べさせたげるなんて、さすが隆一君、良いお婿さんになるよ」 「粥ぐらい簡単だろ?」 「違う違う、何を作るかじゃなくて、作ってあげる事が大事なのよ」 「家族が風邪引いてるなら、当然だと思うがなぁ…」 おばあちゃんも、僕が風邪引いた時はいつも出来立てのお粥を持ってきてくれたな。 よく考えれば風邪引いて一人で養生するなんて、経験したことも無いし考えた事も無い。 「当然って思えてるところが、またカッコイイよ!」 「何ださっきから、褒め殺しか?まぁ、悪い気はしないが」 「ははは。あ、と言う事は、スーパーでの買い物も、メリーのため?」 「勘が良いな。ホットレモネードと生姜湯に使うレモンと生姜を買いに行くんだ」 「へぇー。風邪の定番だね。そんなのも作れるんだ」 「ホットレモネードなら普段からたまに作ってるからな。生姜湯は良い機会だからレシピ見て作るつもりだ」 「生姜紅茶もいいよ。蜂蜜足すと甘くて飲みやすいし」 「あぁ、そうか。蜂蜜も一応買っておかなきゃな」 「小分けできるチューブパックのヤツがいいよ。使いやすいし」 「そうだな。大きいの買っても使いきれないし……ん?」 「どしたの?」 いつもなら寄り道をしていくゲームセンターの前を通り過ぎようとすると、見覚えのある後姿を見かけた。 「あれ、横島じゃないか?」 「え、どれ?」 横島を見つけられない咲に、指をさして教える。 「あ、本当だ」 「あいつ、普段からゲーセン通ってるのか?」 「ちょっと捕まえてくるよ」 「え?お、おい!用もないのに…って、行っちまったよ」 何を考えてるのか、咲は横島を追ってゲームセンターの中に消えていった。 「捕まえてきたよー」 僕がため息をつく間もなく、咲が横島を表に引きずり出した。 「ずいぶん早いな…」 「……………」 咲は誇らしげな顔しているが、いきなり連れてこられた横島は無表情だが、なんとなく不満そうだ。 「うっす。…元気か?」 「…何の用?」 横島がジト目で僕を見つめる。 そこに咲は割って入り、横島に話しかけた。 「横島さん、メリーが風邪引いちゃったんだってさ」 「…それで?」 「これからお見舞いに行こうと思うの。一緒に行かない?」 やれやれ…。 やけに積極的だと思ったら、横島も連れて行きたかったのか。 しかし、お見舞いなんて話初めて聞いたぞ。 横島は、大体の話を察すると、僕に確認をとるような事を聞いてきた。 「…隆一、メリーの容態は?」 「ん?今日風邪引いたばっかりだからな。あんまり良くない」 「…咲はそれでも行くつもり?」 「あ、今日引いたの?…それじゃあ行かないほうがいいのかな?」 「…そのほうがいいと思う。…行くならせめて明日」 「そうだな。僕もそうして欲しい」 横島の冷静な会話の運びで、咲は落ち着きを取り戻した。 「ごめんね、隆一君、私、早とちりしてたみたい」 「いや、あいつも喜ぶと思うよ。明日学校終わったら顔見せてやってくれないか?」 「うん!横島さんも来るよね?」 「…え?私は……迷惑じゃなければ…行ってもいい」 横島は顔を背けながら、お見舞いに来る約束を取り付けてくれた。 「ただいまー…っと、まだ起きてないかな?」 予定通り、生姜とレモンと蜂蜜と雑誌を買ってきた僕は、こっそりとリビングに直行した。 メリーを悪戯に起こすもんじゃないからな。 起きたら携帯に電話をよこすだろ。 「さて、ホットレモネードでも作るか…」 練習に自分用のレモネードを作ろうと、買い物袋からレモンを取り出していると、僕の携帯が鳴り出した。 どうやら起きていたか、帰ってきた時の音で起こしてしまったようだ。 「はいよ、もしもし?」 「私メリー…。あなたのお部屋にいるの…」 「知ってる。どうかしたのか?」 「別に…なんでもないけど…。何か飲みたいわ…」 「水なくなったのか?」 あのポットは2Lくらい入るはずだぞ…。 「ううん、水以外のものを飲みたいの」 「あぁ、そういうことか。なら今作って持ってくよ。温かい飲み物だけど、いい?」 「うん、おねがい」 「あいよ。また何かあったら電話くれな」 丁度いい。二人分作って持って行こう。 粥よりか、幾分か作り慣れたホットレモネードを二人分持って、メリーの休んでいる部屋に戻ってきた。 メリーは布団から起きて座っていた。横になっているのにも飽きたようだ。 「おまたせ。ホットレモネード。飲めば体が温まるぜ?」 「初めて飲むわね…」 「熱いから気をつけろよ?」 カップを渡すと、メリーは水面に息を吹きかけ、口をつけた。 「ん…おいしい…」 「蜂蜜加えると、さらに甘くなるぜ?」 「甘くなるなら入れてきてよ」 「自分で入れろよ…。ほれ、使いきりのチューブタイプのやるから」 メリーはチューブを受け取ると、躊躇いもなく蜂蜜を全部入れやがった。 「うわ、それ入れすぎだろ。甘すぎないか?」 僕の心配をよそに、メリーはスプーンでレモネードをかき混ぜ、一口飲んだ。 しばらくの静止の後…。 「…甘い」 「言わんこっちゃない…。僕のと取り替えるか?」 「え、隆一の分は?」 「メリーに飲ませるために作ったんだから、メリーが飲まないでどうするんだって」 そう言って、蜂蜜入りレモネードを奪い取り、僕のレモネードを渡した。 「えっと…ありがとう」 「別にいいよ。…いつもメリーが読んでる雑誌買ってきたから、置いとくぞ。もう寝すぎて眠気もないだろ?」 「うん、眠くない。夜眠れるかな…」 ただでさえ生活リズムが狂っているメリーは、ため息をつく。 どうせ浅い眠りになるんだから早く起きて、朝日でも浴びてみたらどうだと言ってやりたい。 「寝れなかったら、眠くなるまで僕が話し相手にでもなるよ」 「…………うん」 「んじゃ、リビングにいるから、何かあったら電話な」 「待って…」 立ち上がり、部屋を出ようとした僕を、メリーが呼び止めた。 「ん、まだ何か欲しい物でもあるのか?」 「ううん。その…」 メリーは急にもじもじと言葉を詰まらせた。 少し間を置き、搾り出すかのように小さな声で、言葉を続けた。 「今、話し相手に…」 それ以上メリーは何も喋らなかった。 照れているのか、恥ずかしがっているのか。 僕は、途中までしか喋らなかった用件の最後までを悟り、その願いに応じた。 「……オッケー。僕でよければ、相手になるよ」 「あなたくらいにか、頼めないのよ…」 メリーは顔を俯かせて、ボソボソと喋る。 「僕くらいって…。咲とかいるじゃないか」 「風邪うつしたらいけないし…」 「あぁ、そっか。…といっても、あいつら明日お見舞いに来るぞ?」 「え!?いつの間に…」 レモネードをこぼしそうな勢いで驚くメリー。 なんだ、元気そうじゃないか。 「さっき商店街に買い物行ったときに」 「あいつらって事は、咲だけじゃないのよね…?」 「あぁ、横島も来るって言ってた。正直意外だ」 「うー…。こんなみっともない姿見せられない…」 『みっともない』ねぇ…。 着崩れたパジャマが、熱かったのか胸元がちょっとワイドに開いている。 さっきから目のやり場に困ってるんだが、早く気づいてくれないか。 そのふにゃふにゃなドリルのような髪先もだ。ドリルと言うか、バネだ。もしくはコイル。 せめて梳いて結わいたりしてくれないか。おまえの髪質はストレートだろうが。 …他にも指摘する部分もあるが、確かにみっともないな。 「始終布団を被っていればいい」 「嫌よそんなの…」 「じゃあせめて髪を何とかしとけ。あとはどうにでもなるが、髪だけはクセになったら厄介だぞ」 僕の指摘されてようやく、コイルロールになっている髪の状態を知ったようだ。 「…あ、ロール巻いたままだったんだ…」 「結わくなりしとけばいいんじゃないか。無難にポニテとか」 「何でポニーテールなのよ。寝にくいじゃない」 調子が出てきたのか、早速櫛を取り出して、髪の毛を梳きはじめた。 「あれ、ヘアアイロンじゃないのか?」 「髪洗ってないから、痛んじゃうわ。こういう時は櫛なの」 「ほぉ。…前から思ってたんだけど、メリーって綺麗な髪してるよな」 「…あ、ありがと」 「触ってみていい?」 「ダメよ。女の髪は、認めた人にしか触らせない物なのよ」 「そうなのか…。気をつけよう」 メリーとの会話は長く続いた。結局髪を結わく事はなかったが、今度起きているときはポニーテールも試してみると約束してくれた。 その日の夜はメリーも喋り疲れたのか、雑誌を読みながら眠っていた。 メリーの居る生活 クリスマス特別編3後編へ
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112 :創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 21 50 07 ID 4MxoT8yo アタシ メリー 今どこ? すぐ近く まぁ今はあんたの後ろ いる? まぁ 当たり前に いる てか いない訳ないじゃん みたいな 振り向くと 死ぬ てか アタシが殺して あげる みたいな
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メリー 北米の白人系の民話に登場する口がまがった一家の一。
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メリーの居る生活 五日目 前編・後編(修正版) 2スレ目 140(前編) 206(後編) 作: ◆Rei..HLfH. ID:4ekjVRsx DHvNEd9Z 『メリーの居る生活 四日目』の続編 前編 「ふぁ~…」 午前10時40分。彼女の一日が始まる時間だ。 「……………」 と言っても、彼女が本格的に起動するには10分の時間を要する。 大抵この10分は見た夢の余韻を楽しむ。 「(お姉ちゃん…綺麗だったな…)」 お姉ちゃんと一緒に、読書したり、風を感じたり、お昼寝したり…。 すべて昔の頃の記憶。 だが、夢には時の概念はなく、いつでも戻ってこれる。 今でもお姉ちゃんに会いにいける。 夢は素敵だ。 グゥ~… お腹がすいた…。 そろそろ、現実への扉を開けよう。 メリーは、大きく伸びをすると、行動を起こした。 「…さてと」 とりあえず、布団を片付けようか。 ふと、窓の外を見る。 …今日は天気が良さそうだ。 「…干そうかな」 お天道様の匂いに包まれて眠るのも、これまた気持ちのいいものがある。 「…面倒くさいけど、まぁいいわ」 自分の布団を担ぎながら、窓辺に向かう。 窓の外には一階の屋根が、出てすぐそこにある。 一階の屋根の上にそのまま置けば、それでいいという事だ。 作業は物の数秒で終了する。 「これで今日の夜もグッスリね…」 少しウキウキしながら部屋に戻る。 部屋に戻ると、もう一つの布団があることに気づいた。 というか、その布団を踏んでいた。 『あいつ』の布団だ。 ちょっと昨日は暴れすぎた。 危なく隆一の記憶を飛ばすところだったし。 お詫びということも兼ねて、布団を干してやろう。 トントントン… 階段を下りてリビングに向かう。 「お…、おはようです」 リビングに居る、家族に挨拶する。 「あら、おはよう。メリーちゃん」 テレビのワイドショーを見ていた、おばあさんが返してくれる。 「おはよう。メリー」 新聞とにらめっこしている、おじいさんも返してくれる。 やはり、家族が出来たとはいえ、まだ慣れない。 すこし恥ずかしい。 「え~…と、ご、ご飯を…その…」 さすがに、この時間に『朝』ご飯などを食べたいと、ケロリと言えるほど図々しくない。 だって、居候だし…。 「それじゃ、ちょっと早いけど、お昼にしましょうか?」 ワイドショーがCMに入ったので、動き出すおばあさん。 「さて、何作ろうかしら」 言いながら、すでに何かを作り始めている。 …テレビでは、パンダの二頭目が生まれたというニュースがやっていた。 「ところで、メリーちゃん」 「ふぇ?」 オムライスをほおばりながら、間の抜けた返事をする。 「この町には慣れたかしら?」 「えーと、まぁ、そこそこ…」 実は不良に絡まれてから(二日目参照)まったく外に出ていない…。 まぁ、歩いてこの家まで(隆一を殺りに)来れているんだ、嘘ということでもない。 「あ、そうだメリーちゃん」 「はい?」 今度はちゃんと返事をする。 「この町をよく知るために、一緒に買い物行きましょ?」 「え…、えぇ!?」 「あら?何で驚くのかしら?」 「えっと…、あの…」 「この町を隅から隅まで案内してあげるわ」 「わ…わかりました」 実際、外の事が解るのは嬉しい。 …嬉しいのだが、おばあさんと一緒に歩くのは正直恥ずかしい。 「それじゃあ、お昼食べたら行きましょうか?」 「わかりました」 「このばあさんは、重い荷物をもう持てぬからの。メリーや、手伝っておあげ」 オムライスを箸で撃破したおじいさんが、からかうように言った。 「まだまだ、若い者には負けたくありませんけどねぇ…ふふふ」 「おばあさんだって、十分若いですよ?」 とりあえずフォローを入れる。 「その言葉は一世代前の人にまでしか通用しなくてよ?」 「まったくだな。ははははは!!」 夫婦と少女は、少し早い昼食を楽しく過ごした。 一方学校では……… 「どうも、死人です」 「よう、死人。腐敗臭が漂ってるぞ」 「『何かあったのか?』とか聞かない辺り、お前は素晴らしい奴だよ」 「で、どうした?その……切り傷・打撲傷・アザ・擦り傷・脱臼…数えきれんな」 「総称して、『大けが』と言える…」 今は自習。 このクラスの担任の授業なのだが、今朝その担任が、なにやら大胆なイメチェン決めて学校に来た、 生徒にそのイメチェンの指摘された瞬間、『し…しまったー!!』と言って、どこかに走り去ったそうだ。 「お前の情報網も侮れないな」 「まぁ、お前のおばさんが町内なら、学校が俺の管轄内って事さ」 「先公…忘れたんだなアレを」 「そうだろうな…もうあの髪型は拝めないな」 「次回は光り輝く、本当の姿の先公が来るぜ」 僕と俊二は、静かに澄み渡った空に一点が極端に輝く担任の姿を写した。 「…なぁ、俊二。今日の放課後から始めるんだよな?準備」 「そういえば明日だっけな。面倒だが、お情けで付き合ってやるか」 「お前はセットに妙な仕掛けを仕組むから、早々に帰ってほしい」 「今回はかなりジャンルを増やしたぞ?」 「もう、今帰れ」 そして、メリーは………… 買い物に行くことになってから、やたらと緊張していた。 別に、『おばあさんとだから』という訳ではない。 人と一緒…二人きりで歩くのに慣れていないからだ。 「それじゃ…行きましょうか?」 「あ…はい」 「ということで、おじいさん。留守番お願いしますよ?」 「あぁ、気をつけて行ってきなさい」 「…い、行ってきます」 (あぁ…笑顔が引きつってるのが自分でも解るっ!!) 「…む!?」 隆一の祖父は、彼女のその一瞬の表情を見逃さなかった!! 「メリーや…ちょっと待ちなさい」 「あぅ…はい」 「今の表情…何かあると見た!!」 「……(ピク)」 「図星じゃな?」 「はい…」 「そうじゃろうそうじゃろう。そんなこともあろうかと、コレを用意しておいた。使うといい」 そう言って、彼は縦に細い袋を彼女に渡した。 「…これは?」(ガサ… 中を取り出してみると、長さ40cm程度の鉄製の棒が三本入っていた。 「取り外し可能で折り畳める棒じゃよ。護身用にピッタリじゃろ?」 「えーと…あ、ありがとうございます」 「善からぬ男は、それでホームランじゃ!!」 おじいさんは親指をグッ!!と立てた。 少し重い袋を腰から下げた少女の顔には緊張した『おもむき』はなかった。 おじいさんのエール(?)で随分和んだ。 「さて、メリーちゃん。今日は何が食べたい?」 「そうですねー…。サラダ食べたいです」 「んー。なら魚系は合わないわねぇ」 「ピーマンの肉詰めとかどうです?」 「あら、いいのねぇ」 「私は、ミンチ肉こねるの手伝いますよ」 「ふふふ…そんなこと言われると、本当の娘ができたみたいだわ」 商店街を歩く少女と老婆は、まるで孫と老婆のようだった。 広いスーパーの中で、メリーは買う物を取りにパタパタと走り回っていた。 「キャベツと玉ねぎとピーマン…っと」(ガサガサ←買い物カゴに入れる音 「あとはミンチ肉とそれから…」 おばあさんは、買う物を脳内でリストアップしている。 「次、何持ってきます?」 「そうだ、メリーちゃん。おかし持ってきていいわよ?」 「おかし?いいんですか?」 「もちろんよ。450円以内でね?ふふふ…」 「わかりましたー」 菓子コーナーに着いた。 このスーパーは、無駄に広いので、各コーナーの大きさも普通ではない。 「スナックとか太っちゃうし、美味しくないからパスー」 約10mに陳列されたスナック菓子コーナーが瞬殺(除外)される。 奥の方に行く。 「あ、チョコ…」 甘い物大好きなメリーには堪らないアイテム『チョコ』の、コーナーに来た。 「あ…、キャンディ…」 その隣のコーナーには『飴・キャンディ』のコーナー。 「あぅ…両方いいかも…」 チーン 「ありがとうございましたー」 「さて…買う物も買ったし、帰りましょうか?」 「はーい♪」 二人は家に向かって歩き始めた。 結局、メリーは板チョコと60円の棒付きキャンディを三つ買って貰った。 ガサガサ(袋をあさってる (プリン味甘くて最高~♪) ガサガサ(包装を取ってる (剥きにくい…ふぅ…取れた…) チュパチュパペロペロ… (甘い~幸せ~) ――――――――――― 「……は!?」 意識が飛んでた。 たまに彼女は、幸せ状態になると、周りが見えなくなる。 「…またやっちゃった。えーと…おばあさん?…あれ?」 おばあさんがいない。 前方、左方、右方、後方、上方。 どこを見ても、おばあさんの姿が見えない。 「…もしかして。これってどう見ても迷子?」 本当にありがとうございました。 一方、学校。 「授業という名の束縛から、今。僕は解放された」 「まぁ、明日の準備という名の封印が待ってるんだがな」 「それは言わない約束だ」 「ところで、お前の顔…というか全身の傷はどうした?消えてるぞ?」 「寝たら治った」 「お前、薬草数個で重症が完治できるんじゃないか?」 「あぁ、自信あるぜ」 そして、迷子――――――― 「完全に道に迷ったみたいね…」 結構冷静に見えますが、内心かなり焦ってます。 「はぁ…困ったなぁ…カマがあれば何とかなったんだけど…」 商店街のど真ん中(?)で途方に暮れる。 「あいつに迎えに来てもらうかな…シャクだけど…」 とりあえず、ベンチに座る。 「酒屋と洋服店の近くって言えばわかるかな…」 「ぐす…ぐす…うぅ…」 「…ん?泣き声…?」 泣き声の方を向く。 隣のベンチには、一人、少女が座っていた。 「ぐす…ヒック…」 「…あなたも迷子なの?」 「ぐす…?………(コクン)」 「そぅ…実は私もなの」 「ぐす…お姉ちゃんも?」 「!…(お姉ちゃん…か…)」 「お姉ちゃんも、迷子なの?」 「変でしょ?お姉ちゃんが迷子だなんて」 「うん…変」 「ぐ…」 ちょっとムカっときた。 「で…でも、お姉ちゃん泣いてないよ?」 「ぐす…それじゃ、こぃも泣かない…」 「こぃ?あなたの名前?」 「うん…こぃって言うの」 …珍しい名前。 「それじゃ、こぃちゃん、泣き止んだごほうびにキャンディあげるよ」 「ほんと?ありがとー」 メリーは包装を破いたキャンディーを少女に渡した。 「はい」 「ペロペロ…」 「こぃちゃんは何歳なの?」 「えっと、8才でした」 「過去形?」 「かこけいって?」 「…まぁいいわ」 でした?…9才なのかな。 「とりあえず、隆一に連絡しとこうかな…」 「ん?」 「お姉ちゃん一人で帰れないから、…えーと、弟を呼ぶのよ」 「お姉ちゃんなのに、弟が迎えに来るの?」 「あぅ…そうなの…」 「クスクスクス…」 「わ…笑うことないでしょ…」 あいつが迎えにきたら、まず一発殴ろう。(八つ当たり) 準備作業中 「おーい!!板をこっちにも二枚頼むー!!」 「どんどん机を外に持っててくれー!!」 「そ、そこの人ー!!角材でチャンバラは止めてー!!」 ガヤガヤ 「で、準備してるのに何で僕らは大掃除しなきゃならないんだ?こりゃ、夕暮れまで終わらんぞ?」 「知るか。昼飯無しでこの仕打ちは高くつくぞあのハゲ…」 「担任に当たるな。とりあえずやる事やってとっととトンズラしよう」 「そこの二人ー掃除の邪魔になってるよー!!」 「あぁ、ゴメン…って、僕らが掃除してるんだ!!」 「あうぅ…ごめーん!!」 「見事なノリツッコミ …7点」 「うるせぇ…ん?」 「どうした?産気づいたか?」 「誰か僕をお呼びのようだ」 「LOVEコールか」 「………いや、死の宣告だな」 「熱いねぇ…お気の毒だな」 (ピ… 「あ、もしもし。隆一?」 「…この電話番号は現在、この次元に存在しないか。持ち主が遠くの世界に逝ってる為かかりません」 「………」 「番号をもう二度と確認しないで、怖い目にあう彼の身になって、もう一度お掛けなお…」 「昨日の制裁で反省してないみたいね」 「…さなくて結構です。ご用件をどうぞ」 「迎えに来なさい」 「とうとうVIP扱いですか?」 リムジンの運転なんかできねぇぞ? 「いいから来なさい!!」 「…場所は?」 「えーと。少幽酒店と女霊洋服店…の前?」 「僕に聞くな。商店街だな、とりあえずそっちに行くわ」 「俊二、あとの掃除は頼んだ」 「もう終わったぞ?」 「そうか、それじゃあな」 「俺の奥義を使ったボケを流すとは…相当急いでるな」 「あら?俊二君、終わったならこっちを手伝ってくれる?」 「…………」 「…さて、これで迎えが来るわね」 「………」 「そういえばこぃちゃんは、どうするの?」 「…お母さんたち、夜にならないと帰ってこないの」 「それじゃ、ここでずっと待ってるつもりだったの?」 「…うん」 「ん~…それじゃ、お姉ちゃんのお家来る?」 「迷惑だから止めとく…」 「気にしないでいいから」 「…わかった」 あの妙な名前の店は結構わかりやすい所に建ってた気がしたが… え~と…あ、いた。 「うぉ~い」 「あ、来た」 「迎えに参りましたぞ、お嬢」 「よきにはからいなさい」 「適当なセリフで返事すな」 どこで、そんな言葉覚えるんだ…。 「で、なんでこんな所で遭難してるんだ?」 「おばあさんとはぐれたのよ」 「…と言うことは、まいg(ブン!!)…って、のわぁ!!何だその棒!?」 「おじいさんから貰ったの」 おじいちゃん…渡す相手間違ってるよ…。 「で、そのミニマム生物は?」 「素直に女の子と言いなさいよ」 「素直に迷子と認めなさいy(ゴ」(突きHIT) 「あぅ…」 「ほら、怖がってるじゃない」 「突きはモーションが少ないから奇襲に最適だぜ…ゴフ」 「この子も迷子。連れて帰るわよ」 「それ誘拐です」 「ちょっと訳ありで、夜まで家にくるのよ!!」(ゴッ!! 「痛い!!ストンピングは痛い!!」 「お兄ちゃん…大丈夫?」 「これで大丈夫だったら、自分を褒めたいです」 「お姉ちゃん怖いね?」 「B級ホラー映画より、あいつと一緒の部屋にいる方が数倍怖いです」 「弟なんだから、お姉ちゃんをもっと大切にしなきゃダメだよ?」 「…?わかった。身体が壊れない程度に大切にします」 逆なんじゃないか? 「ふふふ…♪」 何がおかしいんだ、この小娘めが。 「なぁ、この子連れて来ちゃって本当に大丈夫か?」 「とりあえず勝手に付いて来てるんだからいいんじゃない?」 「それでも誘拐罪になるぞ?」 「そのときは、あんたを主犯格で」 本当にやりそうだ…。 家の前に着いた。 「夜まで何してるんだ?」 「遊び相手が何言ってるの?」 「ぎゃあ」 只今の時刻:2時17分 「ねぇねぇ、このお家がそう?」 「…あぁ、あれが僕の家」 ガチャ 「ただいまー」 「ただいま」 「おじゃましまーす!!」 この三人の声が、隆一のサドンデス タイトルマッチのゴングとなった。 後編に続きます。 後編 小娘を僕の部屋に待機させ、僕とメリーは一階に下りた。 「さーて、まず何で遊んであげるの?」 「勝手に連れて来て、無責任すぎです。というか、無計画すぎです」 「う…うるさいわね」 「とりあえず、お菓子とジュースを出すか」 戸棚を開ける。 お菓子は茶菓子しかねぇぜ…。 メリーはスナックとか嫌いだもんな。 冷蔵庫を開く。 飲み物は麦茶と緑茶しかねぇぜ…。 昨日で飲み干したんだっけ。 (昨日は走り回ってたから) 「なぁ、メリー……って、いねぇし」 さっきまで後ろにいたメリーは姿を消している。 もう二階に戻ったか…。 「何だかんだ言って、メリーがずっと世話してるかも」 まぁ、そうするのが当たり前なのだが。 まぁ、何とかなるだろ。 僕は適当に甘そうな茶菓子と、麦茶を持って戦場に戻った。 ガチャ 「スイーツだ、喰らうがいい…ん?」 …やけに静か。 っていうか、小娘の様子がおかしい。 メリーはメリーで、対応に困っている 「…おい、どうしたんだよアレ」 小声で、メリーに話しかける。 「知らないわよ…。戻ってきたら、この調子よ?」 さっきまで、あんなに騒がしかった小娘が、何やら元気が無い。 「………………………」 この場合、固まっているという表現が適切なのか。 何かに怯えているような感じだった。 「やっぱり、連れて来たのがマズかったんじゃないか?」 「でも、ここに来るまで元気だったじゃない」 「…この塞がり方、普通じゃないぞ?」 体育座りして、小さくなっている小娘を見る。 ブルルン…ヴーーーーーーーン!! 「…ッ!?」 「ん?」 何だ?今何かに反応した…。 「ちょっと、隆一聞いてる?」 「いいから、ちょっとお前も小娘のこと見てな」 もしかしたら、と思うが、もう一度見てみなきゃ確信が…。 「…………」 「何も変わらないじゃない?」 「う~ん…」 思い違いかな?と思った、その矢先。 ガチャン…ブーヴーーーーーーン!! 「…………ック!!」 「あ…」 メリーも小娘の変化に気づいた。 「夕刊配達のバイクだな。この音が原因だ」 メリーが近寄る。 「こぃちゃん、バイクの音が恐いの?」 小娘は、少し時間を置いて首を縦に振った。 「隆一、どうしよう…?」 「何の罪の無い、夕刊配達員の方々を、一人残らず懲らしめに行くか?」 「そんな事するわけ無いでしょ……バカ」 「はぁ…、とりあえず窓やら扉やらを閉めて、音をなるべく小さくしよう」 「私は?私は何をすればいい?」 「え?あ…あーっと…」 メリーは何やら厄介な使命感に燃え始めたようだ。 「…メリーは、その子のお姉さんなんだろ?お前はそばに居て、手を握ってやってろ」 「…お姉さん?」 言った自分が照れてきた。 「結構重大な役目だろ?」 「…うん、私お姉ちゃんだもんね」 僕は部屋にある窓という窓を全て閉め、外気を完全に遮断した。 それでも、その音は壁を突き抜けて部屋に浸食してくる。 少女はずっと震えていた。 メリーはその横に寄り添って、手をずっと握っていた。 バイクの音が、こんなにも忌々しい物とは思わなかった…。 「…よし、だいぶ静かになってきたな」 「こぃちゃん、もう平気だよ?」 「………ホント?」 「うん、頑張ったね、こぃちゃん」 「お姉ちゃん…ありがとう」 「ふふふ…」 ……… 僕から見た彼女の笑顔は、 お姉さんとしての笑顔に見えた。 「さーて、遊びますかコンチクショウ」 なんとなく、僕もやる気が出てきた。 「何するの?お兄ちゃん」 この小娘は、すっかり元気になってるし。 「そうだな…、人生ゲームでもやるか?」 「なにそれ?」 「なにそれ?」 二人が、左右対称に首を傾げた。 本物の姉妹みたいだな…。 「簡単に説明すると、すごろくだ。ルールは―――――」 30分経過 「やりぃ、【会社で功績を示す】3万ドルGET!!」 「お姉ちゃんすごーい!!」 く…メリー、なかなかやるじゃねぇか。 こっちは手持ち5万ドル一人身 メリー40万ドル二人、小娘22万ドル三人 圧倒的な経済状態。 だが、挽回して男を見せるのが、このゲームの熱いところ。 女子供に容赦はせぬ。それがこの家のルールだ。 さらに15分経過 「【徳川埋蔵金を発掘50万ドルを得る】っと。もういらないわよ」 「お姉ちゃん、これ読んで~」 「どれどれ…うわ、【企業が大成功70万ドルを得る】だって」 「HAHAHA!!開拓村は僕が一番乗りだぜ!!」 (*開拓村:ゴールの手前にあり、必ず止まるマス。借金がある場合そこで出た数の目だけ、借金を返す作業を繰り返す) 「一人身で借金を抱えたまま、たどり着くところがそことはね…哀れなものね」 「先の人生に不安を見出せますよ…」 肩をトントンと叩かれる。 振り返る 「…どんまい。お兄ちゃん」 …幼女にフォロー入れられた。 結果発表 一位:メリー 154万2000ドル 二位:こぃ 120万6000ドル 三位:隆一 いまだ返済中 「もう僕これ嫌い…」 「結局上がれなかったわね」 「お兄ちゃんかわいそう…」 「しばらくそっとしておいてください」 「じゃあ、頑張って自己修復してね」 「善処いたします…うぅ…」 「…よっこいしょ!!」 ドサドサドサ!! 「ぎゃああ!!……お、重い…!!」 「そろそろ布団を入れないと、冷めちゃうからね」 「あー……こんな時間か…行くか?もう日が暮れちまうぞ」 「あ、お兄ちゃん復活した」 「…そうね、そろそろ行った方がいいわね」 「暗くなってきたな…」 「バイク…来ないよね?」 「もしバイクが来たら、お姉さんが、そのバイクを港まで持っていって、制限時間内に破壊してやるってさ」 「どこの次元の話してるのかな?ん~?」 「体が伸びるインドの僧侶とか、空飛んで頭突きをかます相撲取りとか、髪のセットに余念の無い空軍が居る世界のお話だ」 「その魑魅魍魎の世界に私を入れないでくれる?」 「その恐い笑顔は止めてください。K.O取られそうです」 「家に帰ったら、好きなだけ取らせてあげるわ」 「全力で遠慮します」 「あははは!!」 何が可笑しいか小娘…。 「で、こぃちゃんは、どこかで待ち合わせしてるの?」 「ううん、商店街で、お母さんかお姉ちゃん見つけるの」 「アバウトだな…、大丈夫なのか?」 「大丈夫だよ?」 「心配だな…、どうする?メリー」 「この際、探してあげましょ?」 「やっぱりな…、めんどくs――――」 ブルゥウゥン!!! 「―!?」 しまった!!バイク!? 「い……いやあぁーーー!!」 「こぃちゃん!?」 小娘は急にその場で、うずくまって動かなくなってしまった。 「こぃちゃん!!大丈夫、お姉ちゃんが付いてるから!!」 「来ないで…こっちに来ないで!!」 早く…!!早くどこか行ってくれ!! 僕はそのバイクに、念じるように訴えかけた。 ブー…ブルルン…ヴーーーーーーン!! バイクが動き出す。 バイクは僕達の方でなく、反対方向の道に走って行った。 それなのに…。 「いやーーーーーーー!!」 ダッ!! 「あ!!こぃちゃん!!」 「…な!?」 小娘は、走り出した。そこにはもういないバイクから、逃げるかのように。 「くそ、追いかけるぞ!!」 「あ…う、うん!!」 僕らも追いかけて走り出す。 タッタッタッタッタ!! 小娘は商店街に続く十字路を曲がらず直進して、猛ダッシュをかましている。 これじゃあ、商店街には着かない。 とにかく、早く捕まえよう!! タッタッタッタッタッタッタ!! 「ハァッハァッ!!な…何だ!?あいつ速くないか!?」 僕らの全速力でも一向に距離が縮まない。 「な…!!何で追いつかないの!?」 「つーか、何で幼女にダッシュで負けてるんだよ!?」 クラスで短距離なら、平均より少し上をキープしてる僕でも、追いつけない。 巨大なカマを振り回すほどの身体能力を持ったメリーも、追いつけない。 どんどん距離を離されながらも、僕とメリーは小娘の背中を追い続けた。 タッタッタッタッタッタ!! 「やべぇ…っハアッハッハァッ!!そろそろ限界!!」 「気張りなさい!!ハァ…ハァ…ハァ!!」 言ってるメリーも相当キツそうだ。 小娘との距離もかなり離れてきた。 小さかった背中が、さらに小さく見える。 そのとき、あれまで直進で暴走してた小娘が、急に十字路で曲がった。 「ヤバ!!曲がった!?」 「急いで!!」 残った力を振り絞って、曲がり角までスパートをかける。 「…ッハァ…いない…見失…ゲホッ!!な…った…ハァ…ハァ…」 「そんな…」 曲がり角を曲がると、小娘の後姿は、すでに無かった。 「…っていうか…、ここ…どこだよ…ゲホッゲホ!!」 「…………」 メリーは、呆然と立ち尽くしてる。 「私…、私お姉ちゃんなのに…。あの子を、見失って…」 ここは…子供の頃、時々遊びに来てた公園の近くか。 ずいぶん走ったな…。 「………ん?公園…まだ希望はあるな……ゲホ…」 単純だが、少し希望が出てきた。 「………どういう事?」 「メリー、まだ歩けるか?」 「…当たり前よ、あなたこそ、膝が笑ってるわよ…」 「…一種の芸だ。気にするな」 僕達は、近くにある公園に向かった。 かなりではないが、そこそこ大きい公園。 昔時々来て、俊二と山やん…あと誰かとで遊んでた。 「懐かしいなぁ…」 「公園…ここにいるの?こぃちゃん」 「まぁ、ガキが来るとしたら、ここだろ?わざわざ曲がったことも説明がつく」 「…こーぃちゃーん!!」 「小娘ー!!」 僕とメリーは、手分けして公園を探した。 「いねぇし」 「……まったく」 一周回った所で、メリーと合流した。 「んーむ、僕の推理とシックスセンスが、ここだと言ってたのだが…」 「他に子供がしそうなことは?」 「…木の上か?」 苦肉の案。 「この公園の木は、調べたわよ」 速攻両断。 「…どうやって?」 「ここの木は、桜の木が大半みたいでね。ちょっと協力してもらったのよ」 流石魔女。やることがメルヘンの世界だ。 「…って、ちょっと待てよ?その力で、どこにいるかも分らないのか?」 「あ…」 顔が一瞬で真っ赤になる。アホ魔女…。 「―――////!!」(ガスガス 「イテテテ、蹴るな蹴るな」 「…ちょっと待ってなさい」 そう言って、メリーは静かに目を閉じ、集中し始めた。 「……分ったわ…こっちよ」 タッタッタッタ… メリーは走って行ってしまった。 「場所が分ったんだから、走らなくてもいいんだけどな…」 仕方なく追いかける。 タッタッタッタッタ… メリーと僕は、公園の隅にある垣根の前まで来た。 「この先みたいね…でも、どうやって入るのかしら?」 メリーの言うとおり、ここからは葉っぱの壁で先に進めないようになっている。 「この木の壁…懐かしいな」 僕は知っている。 この緑色の壁の先を。 「メリー、こっちだ」 「え?」 「たしかここに抜け穴が…あった」 垣根の隅には、大人が這って入れる程度の抜け道があった。 「何でこんな穴知ってるのよ…」 「いいから入れって」 「先に入りなさい」 「…何で?」 「いいから!!」 「へいへい…」 微妙なお年頃ってやつか…。 ガサガサガサガサ… 「……ふぅ、抜けたか」 「メリー、大丈夫か?」 抜け道でもがいてるメリーに手を伸ばす。 「髪の毛に引っかかって、あーもう!!」 バキ!!メキメキメキメキ… 自力で脱出。 「ふぅ、…ん?何その手」 「いや、なんでもない」 相手が悪かった。 「さて…、メリー見てみ」 「…秘密基地?」 そう、そこには、昔僕達が作った秘密基地なるものが建っていた。 子供の頃、僕達は―――、僕と俊二と山やんは、この公園に基地を作ることに決めた。 僕は公園の中から、俊二は木の上から、山やんは公園の外から、それぞれ、基地を立てる場所を探した。 戻って合流した三人が、一斉に提案したのが、公園の一角にあるこのスペースだった。 毎日通い続け、一ヶ月ほどかけて、この秘密基地は完成した。 この基地が出来た頃は毎日のように来ていたのに、いつの間にか来なくなっていた。 僕が今ここに来ることがなければ、この基地はそのまま僕の記憶の中に埋もれていたままだっったのかもしれない。 曖昧なまま、子供の頃の思い出として、扱っていたかもしれない。 一人感傷にふけっている僕を横目に、メリーは基地の中で眠っている少女を見つけた。 「こぃちゃん!!」 小娘は、基地の中ですやすやと眠っていた。 「おいおい、この中汚くないのか?」 「…案外キレイになってるわよ?」 「…どれ?うわ本当だ」 誰かが基地を定期的に掃除しているのか、基地の中はいたって清潔を保っていたままだった。 「誰がこんなことを?」 「こぃちゃん、起きて」 聞いてない…。まあ、いいけど。 「起きねぇな、小娘」 「困ったわね…」 「このままおんぶして商店街まで運ぼうか。寝てればバイクの音で逃げることもないだろ」 「それが良さそうね」 「やっぱり僕が背負うんだよな…」 商店街に戻る道。 「いいじゃない、女の子をおぶるなんて、そうそう経験出来ないわよ?」 「こんな経験なら、ノーサンキューだよ…くそ、足の感覚が…」 「踏ん張りなさい、だらしのない」 オレンジ色の空の下。 二つの伸びた影が、やけに幻想的に見えた。 「……ん、あれ、お姉ちゃん?」 「こぃちゃん、大丈夫?」 「……ここは?」 「商店街よ。こぃちゃん途中で眠っちゃったから、隆一が負ぶさってきたの」 メリーとこぃはベンチに座っている。 二人が出会ったあのベンチだ。 「…お兄ちゃんは?」 「ここだ、小娘」 「ヒャン!?」 背後からオレンジジュースを頬に当て付ける。 「はいよ、メリー」 「ありがと」 メリーにも同じオレンジジュースを渡す。 僕はベンチの横の木に寄りかかる。 「まったく…良い運動になったよ…ふぁー…」 「かなり走ったからねぇ…」 「?」 「さてと、今度は保護者探しか」 実はコレが一番厄介なのかもしれない。 「こぃちゃん、お母さんとお姉さんの特徴は?」 「ねぇねぇ、それよりまた今度も遊んでくれる?」 「ん?もちろんよ」 「勘弁してくれよ…ったく」 「本当にいいの?」 「指切りする?」 メリーが細い小指を向ける。 「うん!!」 小娘がその細い小指に、小さな小指を絡ませる。 「ゆびきりげんまん うそいったら はりせんぼん のーます」 やたらと生々しい契約を始め 「ゆーびきった!!」 「ゆーびきった!!」 すぐ終わる。 「お姉ちゃん、お兄ちゃん」 「うん?」 「んあ?」 魂が抜け始めて、適当な返事しか出来ない。 「今日は本当にありがとう。楽しかったよ。また遊ぼうね!!」 「…え?あ、ちょっと!!」 「………」 あっと言う間の出来事だった。 小娘は、それだけ言うと、夕暮れで賑わう人ごみに突っ込んでいった。 「おかあさーん!!」 そんな声が聞こえたのは、少し時間を置いてのことだった。 メリーの隣に座る。 「お姉さんはどうだった?」 「ちょっと大変だったかな…」 「……明るくなったり暗くなったり、騒がしいヤツだったな」 「本当ね…」 「騒がしいと言えば、明日僕の学校で文化祭やるんだった…」 今思い出した。これだけ疲れてたら明日に響くかもしれない。 「今日は早く寝よう…」 「あら?二人ともどうしたのこんな所で」 「あ…おばあちゃん」 「おばあさん、今までどこにいたんですか?」 「ずっと商店街にいたのよ」 いつからいたんだ? 「商店街は情報がよく飛び交ってるからねぇ…ついつい長居しちゃうのよ」 「そろそろ帰らないと、晩ご飯に送れちゃいますね」 「そうね、帰りましょうか」 「よし、帰ろ…」 立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。 そのまま、ベンチに堕ちる。 「…僕は後で行くから、先帰ってて」 「はぁ…、情けないわね」 メリーが呆れている。 「肩貸してあげるわ、掴まりなさい」 「女の肩を借りて歩くのは、男としてどうかと思います先生」 「ボディブローの一撃で昏倒した後、私に担がれて帰宅するのどっちがいい?」 「…謹んで肩を拝借致します」 「よっこいしょっと…」 「ぐぐ…感覚がほとんど無いってどうよ?」 「いいから行くわよ」 「おう」 商店街から家に戻るまで、僕はメリーに引きずられて帰ることになった。 「重くありませんか?」 「別に?」 あのカマを振り回せるんだ、コレくらい楽勝か。 メリーに担がれていると、メリーからいい香りがしてくる。 シャンプーの匂いだな…桜の香りか? こだわるな…こいつ。 その匂いにうとうとしながら、僕は引きずられつつ、家に帰った。 オレンジ色だった空は、少し黒く染まり始めていた。 拍手っぽいもの(感想やら) 名前 コメント
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メリー Merry 公式ホームページ 所属リーグ:東北社会人サッカーリーグ2部南(6部相当) 法人名: 代表者:高橋信義 創立年:1998年 活動区域/ホームタウン:福島県/福島市 クラブカラー:赤/水色 ホームスタジアム:福島市信夫ヶ丘競技場(16,400人)/十六沼公園サッカー場(?人)/あづま総合運動公園補助陸上競技場(?人) 練習グラウンド: アカデミー(育成): クラブマスコット:- ユニフォームサプライヤー:
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メリーの居る生活 一日目大幅修正版 作◆Rei..HLfH. メリーの居る生活 一日目の修正版 カチ…カチカチッ… メリーさん の検索結果 約 294,000 件 「…多いな、絞り込んでみるか」 カタカタカタカタ… ――――昨日、身に覚えの無い人物から突然電話が家にかかってきた。 『はい、もしもし』 『私メリーさん。今あなたの家に向かってるの。明日にはそっちに行くわ』 『(……?)えっと、メリー…何だって?』 『だから、私はメリー。あなたの家に向かってるわ。明日の夜には着くからね。それじゃ。 …ツーツーツー』 『いや、だから…って、切れたか…』 夕方の6時。 もうすぐ日が暮れる。 メリーさんなんて、小学校で流行って以来、耳にすることはなかった。 直接本人から電話が来るとは、思いもよらなかったな。 そんなわけで、暇つぶしも兼ねて僕はネットで「メリーさん」とやらを調べている。 ザッと見ると、元ネタは都市伝説。 電話をしながら近づいて行って最後は、 『あなたの後ろにいるの』っていう展開が主流らしい。 もっとも、その後の展開はお人形にされたり、意識不明の植物人間、行方不明、死亡。 等等と、好き勝手な結末で締めくくられている。 それじゃあ、ここにあるデータの情報源は誰からのものなのか。 本人が無事な状態ではない以上、経緯や結末など知られないはずだろう。 つまりは…。 「…根の葉もない噂話をモチーフにした、いたずら電話だな」 くだらない。 調べている手を休め、大きく伸びをする。 ふと窓から外を見て、いつの間にか日が落ちていたことに気が付いた。 「晩飯の用意しなきゃな…」 今日の晩飯は何にしよう。 そんな平和な悩み事を解決するべく、 目の前にある検索サイトを「メリーさん」から「献立」にして再検索した。 プルルルルルルルルルル…プルルルルルルルル… 「ん?」 洋食の献立を見ている途中に、携帯が鳴り出した。 登録された番号の着信は着歌が流れるから、すぐにわかる。 「非通知…まさか…な」 携帯電話の番号になんて、いたずらで掛かってくるわけがない。 多分間違い電話辺りだろう。 プルルルルルルルルル…プルルルルルルルルルルル… 長いな。 いたずらにしては長すぎる。 間違い電話だったら、出てやらないとウザイ。 「しかたない…か」 ピ 「…もしもし」 「出るの遅いぞ、親友なら3コール以内に出るのが常識だ」 「なんだ…俊二か」 「なんだとはつれないな。誰かから電話でも待ってたのか?」 「いや、その逆だ。…で、何で非通知で電話かけてきた」 「うむ、悪いが、俺の携帯の番号教えてくれ」 「…落としたのか?」 「不覚だった」 つまりこいつは、携帯落としたことに気付き、自分の携帯に電話しようと思ったが、番号が解らず、 困り果てた挙句に、手帳に書いてあった僕の携帯の番号に電話をかけてきたらしい。 「まったく、ちょっと待ってな」 「すまん、出来るだけ急いでくれ」 「わかってる。落ち着いて深呼吸でもしてろ」 確かあいつ、メールアドレスに電話番号入れてたよな…あった。 「よし、番号言うぞー。――――――――だ」 「…うむ、助かった。礼は明日してやる。また―――――」 「…………?」 …まったく、慌てすぎて言葉が終わる前に受話器を置いたらしい。 ため息をつきながら、僕も電話を切ろうとした…。 「――――――――――――――…―」 ん? 「―――…―――…………――――……―」 何だ? ツーツーツーとも言わないし、それに何かが聞こえた気がする。 ……携帯を耳に当てて、注意して聞いてみる。 「―…――――ブツンッ…私メリーさん」 「!?」 慌てて耳を離す 嘘だろ!?着信もしなかった!! 携帯電話のディスプレイを見る。 「非通知 通話時間2分15秒」 …電話は切れてない。通話中に割り込んだ!? そんなこと出来るはずがない…。 何者なんだ…。 恐る恐る、僕は携帯に耳を当てた。 「もしもーし?おかしいわね…」 「もしもし…」 「あ、繋がってた。まったく、反応ぐらいしなさいよ」 「…あんたは一体何者なんだ?」 「私はメリーさんよ。ちょうど今あなたの住んでる町に着いたところ」 「…こっちに来るのか?」 「そうよ」 「何しに?」 「解ってるんでしょ?あなたを殺しに行くの」 血の気が引いて行くのが解った。 ただの狂言かもしれない、ドッキリかもしれない。そう思いたかった。 だが彼女の口からは一片の迷いもなかった。 間違いなく殺しに来る…。 「今あなたのかよってる学校の前を通ったわ。近くまで行ったらまた電話するから」 ブツン… ツーツーツーツーツー… 放心状態の中、今まさに一歩ずつ、彼女が近づいてくることだけは理解した。 頭が真っ白になった。 仕方ないだろ、いきなり自分を殺しに行くと予告電話が着たら、誰でもショックを受ける。 何か対策を練らなきゃいけない。 でも何も浮かばない。 警察に電話しようか? 相手にしてくれないか、間に合わない。 もう、間に合わない。 ~~~~~♪~~~♪ 「!!」 この着歌、俊二か。 「もしもし?」 「携帯見つかったぜ相棒!!」 「…あ、ああ、よかったな」 「…何かあったのか?」 「……」 「吹いたら消えそうな状態だな。とにかく話してみろ」 「…分った。笑わないで聞いてくれ」 僕は俊二に 『メリーさんから妙な方法で電話が掛かってきた』 『もうすぐ僕は殺されるかもしれない』 と、簡潔に説明した。 「簡単には信じられない話だな…」 「…僕、どうすればいいんだろう」 「その困りよう、信じた方がよさそうだな」 「信じてくれるのか?」 「俺は、お前がタチの悪い嘘をつく人間じゃないって知っている」 「…ありがとう」 「今から俺の言うとおりにするんだ、学校前を歩いてたなら時間はないぞ!」 「わかった!」 「まずは逃走経路の確保!お前の部屋は2階だから、屋根伝いに逃げれるだろ」 「あぁ、少し暗いが大丈夫だ」 「次は玄関から靴を持ってくるついでに、1階の玄関と部屋の窓の鍵を全部閉めろ!2階は後だ」 「了解!」 僕は階段を急いで下りて、リビングの窓を全部閉めてから玄関に走った。 ガチャン 「玄関の鍵は閉めた。次は?」 「2階に戻るんだ。武器になる物は持つな!交戦するのは絶対に避けろ。逃げる事に全力を使え!」 「よし!」 俊二からの指示で、僕は素早く動く事が出来る。 この電話さえあれば、俺は生き延びれるかもしれない。 「それから――――――――――――……―」 「…も、もしもし!?おい、俊二!!おい!!」 嘘だろ!?電話が切れた!! しかも、このパターン…!! 「――ブツン…私メリーさん」 「!!…くそ!」 時間切れか! 「今あなたの家の前にいるの。玄関…開けてくれない?」 「!?」 玄関を見る。 曇りガラス越しに、背の低いシルエットが見える。 「嫌だ!!開けたら僕を殺すんだろ!?」 「そうよ?だから早く開けてよ」 何故だ…なんでこんなアッサリと言えるんだ…。 「ねぇ…開けてよ…」 今度は電話ではなく、玄関の扉越しから彼女の声が聞こえた。 「――――――――!!」 「う…うわあああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!! 殺される殺される殺される殺される殺される殺される!! 僕は玄関のシルエットから必死に逃げた。 階段を上りながら躓き、体を打ちつけながら、自分の部屋に駆け込んだ。 ガチャガチャガチャ!! 震える手で扉の鍵を閉めて、窓の鍵を閉めに走った。 ガシャ!!カーテンを開け、窓の鍵を閉めたその時 僕の心臓は止まりかけた。 窓に映る僕の後ろに…僕では無い影がある… そこに映る影は、紛れも無く少女の姿だった。 金色の巻き髪を左右に垂らし、 烏のように黒いゴシックワンピースを身に纏っている。 無表情だから解る、端整な顔立ちは逆に恐怖を覚える。 そして彼女は格好に不釣合いなほど、大きなカマを細い腕で持っていた。否、肩にかけていた 「あ…………あぁ………ッ!!」 『そんな…、どうやって入ったんだ…』 言葉さえ声に出せない。 全身が完全に硬直していた。 まるで時間が止まっているようだ。 否、一つだけ、僕の中では動いている。 高鳴る心臓。 もうすぐ止まってしまう心臓。 時間が止まった世界の中、彼女は動き始める。 そして彼女は口を開いた――――― 「私メリーさん。今あなたの後ろにいるの」 その声と同時に時が動き始めた!! 僕は後ろを振り向く、 彼女は思いきり鎌を振りかぶり、僕目掛けて横薙ぎにした!! 僕は殺されるのか…そう覚悟した。 ビュン!! 一瞬の出来事だった。 僕は体勢を低くし、横から来る獲物を間一髪でかわした!! 体が自然と動いていた。 本能だろうか?自分でも驚くほどの敏捷性で鎌をかわすことが出来た。 「なぜジッとしていないの?早く殺されてよ」 「い…いやだ!!」 彼女は鎌を持つ手に力を入れた。 「……………ハッ!!」 袈裟切りを横に飛びかわす。 マンガで読んだ「自分より背丈の高い武器を扱うと動きが大ぶりになる」 この知識は間違いではないらしい! 避けつづける!! 「タァッ!!」 「………ッ!!」 ドカン!! 振り下ろされる鎌をかわし、窓を見る。 窓から正反対の場所に移動してしまった。 おまけに鍵まで掛けて、逃走経路を自分で潰した。 くそ!!これじゃジリ貧だ!! 「よそ見するなんて余裕ね!!」 「うぉあああ!?」 草を刈るように、鎌が足元を払いにきた!! とっさにジャンプして飛び越えた!! ……が。 「………フフ…」 「な!?」 メリーが不適に微笑んだ。 しまった、フェイント!? すぐにメリーが、着地した僕の顔面に蹴りを加えてくる!! ガード…!!間にあわ…… ドガッ!! 「ぐ…かはッ…」 僕は勢いよく壁に叩きつけられ、動けなくなってしまった。 「ぐぐ…」 「あっけないわね…。鎌の方に集中しすぎて私自身には注意しないからよ」 「くそ…」 「立たせないわ。ここまま死んでもらうわよ」 …………ガタン…カチャ 立ち上がろうとする僕の頬に、メリーは鎌の刃を当てた。 冷たい刃が、動き回って熱った僕の体温を一気に冷ました。 「もう、遊びはお終い…」 その目は今まで見たことの無いような冷酷な目だった。 手と足…全身の体の震えが止まらない。 さっきまでとは違う恐怖…。 さっきまで【死】の恐怖でいっぱいだったが、 今は【メリー】に恐怖している自分がいる。 年貢の納め時らしい。 僕は死を覚悟していた。 「それじゃ、行くわよ」 「……………」 彼女が鎌を振りかざした時。すべて終ったと思えた。 僕は目を瞑り、震えながら鎌を振り下ろされるのを待った。 「……………?」 だが、 振り上げた鎌は僕に下ろされる事はなかった。 恐る恐る目を開く。 …また時間が止まった?、 いや、僕の身体は震えたままだった。 メリーの動きだけが止まっている。 「……………」 「……………」 この沈黙は何? 僕は『もしかしたら助かるかもしれない』という考えと『でも、覚悟だけはしておこう』という考えが頭を巡っていた。 「ふぅ…」 不意にメリーがため息をつき、構えを解いて鎌を横に置いた。 「情けない…」 同時に、メリーの口から何かが聞こえた。 …情けない? 「避けてる時は殺しがいあったけど…今のあんたは…」 何が起きてるのか、よくわからない。 「あなた!!」 「はッ!!はいぃぃいぃ!!」 「あなたみたいな臆病者を殺したら、私の名誉が傷つくわ!!もっと勇ましく大往生なさい!!」 話が読めない。とりあえず反論してみる。 「む…無茶苦茶言うなよ!!誰だって死にたk―――」 「うるさい!!」 反論不可ですか。 「…いいわ、私が鍛えてあげるわ…フフフフフ」 ………何かおかしい。 まさか…。 「コホン!!」 「私メリー。今日からあなたと一緒に居るわ」 「質問」 「却下よ」 ………待て。メリーが玄関に着た時より、思考が悪くなってる…。 つまり、彼女は僕と暮らすってことか? 「いい?今日から私があなたを鍛えてあげるわ」 「……………」←却下されるので何も言わない。 「いいわね?」 「………………」←やっぱり何もいえない 「そうと決まれば、よろしくね隆一」 鎌を抱えた彼女…メリーはどこか楽しそうな笑顔でそう言った。 こうして、僕とメリーの共同生活が始まった。
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■メリー1 秘封倶楽部に入ったのに、特にたいした理由はない。 たまたま学食で二人と相席になり、聞こえてきた面白そうな話に首を突っ込んだのが始まりだ。 そのときは確か、町外れの廃屋に行ってみたんだっけか。 やたら古めかしい洋館で、外国人風の子(メリーだっけか)が言うには『ここに境界が見えた』とか…… 結局、一晩中うろついてみたものの収穫はゼロ。たいした事のない初サークル活動だった。 **** ある夜。俺はメリーと一緒だった。場所はよく分からない古寺。 メリー曰く『ここには間違いなく境界があるの』だそうだが……霊感なんぞ一欠も無い俺にはよく分からないや。 「はぁ……今日はやけに冷えるわね」 「まぁ、秋だからなぁ。冷え込むこともあるだろーし」 「うう、寒いわー……」 「……そんなに寒いなら厚着してくればいいでしょが」 ちなみにいつも一緒の腐れ縁、宇佐見蓮子は本日はお休み。 あの元気だけが取り得の活発娘がどうしたことか、風邪を引いて寝込んでしまったのだ。無論指差して笑っておいたのは言うまでもない。 『いーくー……』とどこぞのゾンビのごとく地べたを這いずっていたので、数発ほど腕にしっぺを叩き込み撃沈。 かくして蓮子をベッドに封印することには成功した。成功したんだけど…… 肝心の今日のサークル活動どうするのか? ってのが問題になった。 まぁ蓮子も心配だし、中止にしようかと提案したところ、メリーはあっさりと言った。 「あら、境界は待ってくれないわよ? さっさと行きましょ」 ……ずいぶんと思い切りのいい事で。ついでに友達想いでもあるな。 かくして俺とメリーは二人だけで、夜の古寺へと旅立ったという訳である。 ちなみに明日提出の課題があったりしたのだが、軽くブッチした事をここに記しておく。 ……講師、流石にゴメン。 「はーっ……ごしごし……」 手をすり合わせながら息を吐き、冷えた手を温めているメリー。 その視線はここへ来たときから、寺の隅の一点を見据え動かすことはない。 なんでも、そこが境界の弱くなっているところだとか。……俺には桜の枯れ木が立ってるだけにしか見えないんだけどな。 メリーはどうも寒がりなのか、カタカタと震えているようにも見える。 …………それでも視線を外さないあたり、流石というか馬鹿というか…… 「……仕方ないか」 「え?」 不思議な声をあげるメリーを尻目に、俺はコートを脱ぐ。 そして、ばさりと座っていたメリーに掛けてやった。 「わ……わ?」 「見てて寒そうだからな。着とけ」 「……そう? 暖かくて嬉しいけど……いいのかしら?」 「いいんだよ。まだそこそこ暖かいし。寒いの慣れてるし」 「……ふふ。じゃ、お言葉に甘えて借りるわね」 メリーはどこか嬉しそうにコートを撫ぜて、そう答えた。 寒さで少し白くなった顔に浮かぶ、綺麗な笑顔。 それを見るのが照れくさかったので、俺はメリーから視線をそらした。 **** 腕時計を見る。ここに来てからもう三時間は経った。 ……特別なことは、何も起こっていない。 メリーは相変わらず、桜の枯れ木を見つめ続けていた。 どこかこの場所ではない、どこにも存在しない場所を見ているかのような眼。 その眼は、どこまでもどこまでもひたむきで、まっすぐで。 「……何が見えてるんだ?」 「え?」 つい、そんなことを聞いてしまった。 緊張を切ってしまったかな。ちょっと反省しなければ。 「境界っていっても、別に線だけって訳じゃないんだろ?」 「あ。あー……そうね。そういう風に見えるときもあるんだけど……」 うーん、と指を口元に当てながら考え込むメリー。 ……中々に可愛いな。どこぞのお嬢様を髣髴とさせるぜ。 「今はね、桜が見えてるわ」 「……桜? 枯れ木じゃなくってか?」 「ええ。満開の桜。雪のように花びらが待っていて……とても綺麗だわ」 メリーと同じように、境界のある場所を見る。 ……けれど、どう見てもカラカラに枯れた桜の木しか俺には見えない。 桜の花も、舞い散る花びらもそこには存在していない。 少なくとも……俺には分からない。 メリーには見えるものが、俺には……見えていない。 メリーには見えていて、俺には見えないナニカ。 それが二人の間に存在している、絶対に超えられない線のように思えた。 「……見えない?」 「…………ああ」 苦々しい気持ちで、答えた。 メリーはきっと軽い気持ちで問うたのだろう。 けれど、俺にはそれが……拒絶の言葉のように思えてしまって。 ……気づかれないように小さく、肩を落とした。 「そっか……残念」 「あー……まぁ、俺は結局なんも力ないですからね」 努めて軽い口調で答えた。 それが、今の俺の精一杯だった。 「見たいのよ」 いきなり、メリーはそう言った。今までのような、呟きとも囁きともとれる声とは違う。 どこか願うような、想いを込めた……力強い言葉。 「メリー……?」 「見たいの。舞い散る桜吹雪を。息を呑むほどに美しい桜の木を」 「…………けど」 それはもう、メリーの眼には見えてるじゃないか。 ……そう、言おうとした。言うつもりだった。 けれど。 「貴方と一緒に……見たいの」 その言葉に。 俺は全ての言葉を失った。 同じものを見たい。 それは……俺の願いとまったく同じなのだから。 メリーはゆっくりと俺の方を向いた。ほんの少し青みがかった瞳が、今俺を見つめている。 その瞳の奥底には……堪えきれないほどの感情が渦巻いているのは容易に見て取れた。 「初めてよ。こんな風に……見えているものを共有したいって思ったのは」 「………………」 「貴方と同じ物を見たい。同じ物を見てほしい。……傍に、いてほしい」 ゆっくりと、メリーの顔が近づいてくる。 彼女が何をしようとしているのか、分からないほど俺は馬鹿じゃない。 動けない。彼女の言葉に、俺は縛られてしまっている。 「……無理な願いなのかしら。こんなに願っているのに」 ほんの少し、触れる唇。 「こんなに……貴方が好きなのに」 「……御免なさい。無理難題だったわね」 再び離れる距離。メリーはまた、桜の枯れ木の方を向いてしまった。 「………………」 俺は、何かを勘違いしていたんじゃないのだろうか。 俺は見えないと思って、彼女と隔たりがあったと思っていたように。 彼女もまた、見えてしまうということで俺と隔たりがあるように思っていた。 俺だけじゃない。 彼女も……その隔たりを埋めたかったんだ。 隔たりは、どうすれば埋まる? 俺には特別な力は無い。同じ物が見れるとは……到底思えない。 けど。 今たった一つ、俺に……俺だけに出来ることは、ある。 「……メリー」 「ん?」 そっと、こちらを向くメリー。 その瞬間。 「んっ……」 「!!」 今度は俺から、メリーの唇に触れた。 軽く触れるだけではない……想いを伝えるための口付け。 驚いていたメリーも、俺の気持ちをわかってくれたのか……瞳を閉じる。 その瞳から、ぽろりと。 一筋の淡い輝きが零れ落ち…… 俺の手の甲に。 ポツリと落ちた。 ザァッ………… 微かに甘い香りのする、暖かい風が吹いた。 そして。 俺の目の前を。 ひとひらの桜の花びらが、流れていった。 見えるか、見えないか。分かるか、分からないか。 そんなの関係ない。些細なことだ。 大事なのは。 その隔たりを超えようとする強い想い。 それさえあれば。 どんな物だって見ることが出来る筈だ。 君と一緒に。 *************************************** メリーって聞くとクリスマスが脳内に浮かびます。 ……どーせ一人だってのに。 最後に桜の花びらが見えたのは。 まぁ……ゆかりんの仕業ってことにしておいてくださいな。 1スレ目 736 ─────────────────────────────────────────────────────────── ――『その日』、俺の中で何かが変わった。 俺は、いつものように森を歩いていた。 いつものように雑魚共は道を開け、俺は森を好きなように動く。 腹が減れば森の果てまで行き、通りかかった人間を食う。 森の中には道は無い。だから中には人間は滅多にいない。 その日は、滅多に無いことが起こった。 森がざわついていた。 理由はわかる。俺はこの森の中のことなら何だってわかる。 人間がいる。それも力を持った人間。 しばらくいなかったが、また俺を狩るために来た者だろう。 ……違う。匂いが違う。これは…外の人間。 興味が湧いた。雑魚に食わせてしまうのも勿体無い。 せっかく現れた珍しい物だ。俺が食う……。 雑魚を軽く威圧しながらそこへ向かう。 この森の中に俺に逆らう者はいない。 弱者は強者に従う。当然のことだ。 程無くしてそこに着く。 いた。見慣れぬ紫の衣服、長い金の髪の女。そして漂う力。 やはり外の人間。それも極上の品だ。 暴れられても面倒だ。いつものように気配を消し、近づいて一息に狩……らなかった。 何か引っかかった。 気付けば、俺は姿を晒していた。 女はもともと怯えていたが、俺の姿を見てその表情がより強張った。 俺は、威圧した。周りの雑魚も、女も。 雑魚共は何もしないよう。そして、女が逃げるよう。 思惑通り女は逃げた。俺は雑魚共に手を出さないよう指示した。 何故、そんなことをしたのかわからなかった……。 俺は女を追っていた。 逃がしたとはいえ俺が目をつけた獲物だ。誰の手も出させない。 絶えず雑魚を圧し、女が危険な場所に近づこうとすれば、姿を現しそこから遠ざけさせた。 まるで守っているようだ。そう思ったのを打ち消した。 それでも所詮は人間、それも女だ。 やがて憔悴し、倒れた。 意識が無いのを確認してから俺は近づき、女を抱え上げた。 ねぐらに持って帰る。普段の俺ならばそうしただろう。 だが、俺は女を担ぎ森の外へ向かった。 人間が通り、かつ人間の里から多少離れた所。 女をそこに置き、妖怪が近づかないよう威嚇した。 俺は、何もせずに帰った。 何かが、変わっていた……。 幾日か経った。 いつもと変わらない。雑魚を統べ、人間を食う。 何も変わらなかった。だが、何かが欠けた感じがしていた。 ふと気になり女を置いた場所を見に行った。 女はいない。死臭も無い。里の人間が連れて帰ったのだろう。 安心した。……安心? また、幾日か経った。 森の傍をあの女が歩いていた。 俺は、何もせずそれを見ていた。 それ以来、時折女の姿を見るようになった。 俺は食うわけでもなく、女の動向を見ていた。 ある日気付いた。俺は、あの人間の女に恋をしたのだと。 初めは自分でも否定した。 だが、気付いてしまえば後は溢れるばかりで、俺はそれを認めるしかなかった。 俺は、あの女を愛している……。手に入れたい。共に、歩みたい。 だが俺は人間ではない、妖怪だ。 妖怪は人間を食うもの。人間は妖怪を退治するもの。 妖怪と人間が相容れることは有り得ない。 創造主よ、いるなら答えてくれ。 何故俺を妖怪にした? 何故彼女を人間にした? 何故、俺を彼女と巡り合わせた……。 腹が減ったから人間を狩った。 何の感慨も無い。当然だ。妖怪は、人間を食うものだ。 そこで思いついた。 妖怪は人間を食うもの。ならば、人間を食わなければ妖怪ではなくなるのでは? 俺は、彼女と添い遂げたい。 それができるのならば、人間にもなろう。 その場に死体を捨て、去った。雑魚が群がり、俺も後ろ髪を引かれたが、それから逃げるように俺は帰った。 ……人間を食わなくなって幾日が過ぎたろう。 俺の力は日に日に衰え、徐々に人間に近づいていった。 俺の次に強かった奴にねぐらを追われた。 構わない。俺は人間になってこの森を出るんだ。 数いる雑魚と共に過ごすようになった。 その中ではまだ強いほうだったが、すぐに弱くなった。 もう少し。もう少しで人間に……。 森の中に、敵う相手がいなくなった。妖怪どころか、獣にさえも。 俺は、とうとう人間になった。 人間の体がこれほど辛いとは思わなかった。 獣や雑魚共が手を出してくる。 森を歩くだけで極端に消耗する。 体が重い。 彼女は、こんな状態だったのか。今なら気持ちがわかる。 ほうほうの体で森を抜ける。歩きやすい道に出る。 里に向かって歩き出す。森の側は通らない。今の俺は、人間だ。 路傍に花が咲いていた。 そうだ、これを彼女に渡そう。 以前の俺には思いつかないことだ。俺は人間になったんだ。 里が見えた。 見覚えのある、変わった紫の服が見えた。 風になびく金の髪が見えた。 顔が見えた。驚いた表情。振り返ってみるが何もいない。何に怯えているのか。 人間が集まってきた。俺を迎えてくれるのだろうか。何故、武器を持っているんだ? 声の届く距離に来た。さあ、話しかけよう。 『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ……』 何だ今のは? 俺の声? 俺は人間になったんじゃないのか? もう一度声を出す。……やはり叫びしか上がらない。 槍が体を貫いた。 痛い、イタイイタイイタイイタイイタイイタイ! 棒が、鍬が、鎌が俺に襲い掛かる。 花。これだけは守らないと……。これは彼女に渡すんだ。 攻撃が止んだ。 声をかけられた気がして顔を上げると、彼女がいた。 抱えていた花を渡す。言葉を出そうとする。 一言だけでいい。伝えさせてくれ。俺に言葉を与えてくれ!!! 『ウ、ア…イ……アイ、シ……テル』 渡せた。伝えられた。 急速に力が抜け、意識が沈んでいく。 俺が終わる。 最期に、一目だけでも……。 ああ、やはりお前は美しい。笑顔が見れなかったのは残念だな。 怯えたような、驚いたような瞳。そこに写った俺の姿は、飢え、痩せ衰えた妖怪だった。 「ちっ、妖怪が! こんな所まで来やがって!」 「メリーちゃん、怪我は無いかい?」 みんながそんなことを言って、また今の妖怪に武器を振り下ろそうとする。 慌ててそれを止めた。しぶしぶながらやめてくれる。 どこかに捨ててくるらしく、何人かが道具を取りに行った。 「愛してる、か」 渡された花を見て呟く。私にしか聞こえなかったようだ。 この人(?)は見覚えがある。 私がこっちに来たときの森にいた、とても強そうな妖怪。 「メリーちゃん、そんな妖怪が持ってきた花なんて捨てちゃいなよ。毒もってるかもよ」 「一体何のつもりだろうねぇ?」 なんとか説得してそれを断る。 この人は妖怪だけど、とても一途だったのだと思う。 あんなに強そうだったのに、こんなに弱っちゃって。 「愛してる……」 もう一度呟く。 この人が倒れる直前、体に境界が見えた。人間と妖怪の境界。 もし生まれ変わったら、今度は人間かもしれないわね。 「もう一度出会ったら、今度はわからないわよ?」 だから、いつかもう一度。 この花はそのときまでとっといてあげるわ、名前も知らない妖怪さん。 1スレ目 779 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新年会の会場である居酒屋を出たのは、日付が変わるか変わらないか位の時刻だった。 「後で払うから」などとほざいて勘定を全て俺に押し付けた宇佐美蓮子は店を出てきた俺を見るなり小脇に抱えている人物を俺に突き出す。 「じゃあ○○、メリーのことよろしくね。メリーに変なことしたらぶっとばすから」 「……何が『じゃあ』なのかはよく分からないがそんな疑念を抱くくらいならお前がハーンを送っていけばいいんじゃないのか?」 「だって私の家メリーの家とは正反対の所にあるんだもん。メリーを送ってからじゃ終電に間に合わないわ」 「それで俺の家の場所あんなにしつこく聞いてきたのか……」 研究室での日々で俺が彼女に勝てないということは当の昔に証明済みである。 ため息と共に突き出されたまま眠っているマエリベリー=ハーンを受け取る。 「うし、じゃあまたね。今度は休みが明けてからになるかな?」 「そうだな。お前も気をつけて帰れよ宇佐美。寝惚けてドブに突っ込んだ程度の笑い話なら歓迎するからネタを仕込んでおけ」 繰り出されるミドルキックを手に持つハーンで阻止する。 おお、寸止め。コイツ格闘技とかやってるんじゃないか? 「メリーバリアとは……中々やるじゃない、○○」 「ここまで適当に扱っても目を覚まそうとしないハーンに敬意を称しただけだ」 「訳が分からないわよ」 「うるさい、とにかく気をつけて帰れ」 「はいはい。またね、○○」 「ああ」 軽く手を振って宇佐美が角を曲がるまでその姿を見送る。 さて。 「おい、ハーン」 ぺちぺち、と軽く頬を叩く。 マエリベリー=ハーンと会ったのは今日で三回目だ。 宇佐美を求めて研究室にやってきた過去二回で、互いの名前や姿形くらいは覚えている仲だった。 しかしサードコンタクトで一緒に飲む間柄にまで発展するとは。 里帰りしない研究室のメンバーで新年会。参加者は俺と宇佐美だけ。じゃあメリーでも呼ぼうかしら。 人間関係が発展する時はあっという間だということを学んだ一日だった。 「ハーン、歩けるか?」 返事は無い。まだ夢の中みたいだ。 もう一度ため息。宇佐美にせよこの娘にせよ、どうしてこうもマイペースな女性だけが俺の周りに集まるのだろうか。 仕方が無いので彼女を背負って歩くことにした。 タクシーという手もあるのだろうが学生である身にタクシーは辛い。 というか宇佐美の奴、多分今日の飲み会の金払わねえだろうな。 「ん、しょ……っと」 軽い。羽のようだ、という言葉がぴったりである。これなら多分腕の力ももつだろう。 そのことにとりあえずの安堵。宇佐美が消えていった方角とは正反対の道を歩き出すための第一歩を踏み出した。 ーーー 「あ」 家へと向かう道を歩いている最中に気が付いた。ハーンの家はどこにあるのだろうか。 肝心なことを聞くのを忘れていた。思わず足が止まる。 宇佐美に聞けば住所くらい分かるだろうか――そう思いポケットの携帯電話に手を伸ばそうとして、止める。 あいつの性格からして住所なんてお上品なものが頭に入っているとは思えない。 「どうすっかなぁ……」 「何を?」 独り言のつもりで口に出した言葉に、耳元から返事が返ってきたので俺は思わず息を止めてしまった。 首を左に回すと、目が合った。 「起きてたのか、ハーン」 「うん。ついさっき」 「丁度いい。お前の家って何処だ?」 「えー……っと、うん。このまま真っ直ぐ」 「分かった」 目を覚ましてくれてよかった。おかげでややこしい事態に陥らないですみそうである。 背中のハーンを背負いなおす。気持ちも新たにまた歩き始める。 「ごめんね、○○」 飲み会の前までは○○君、ハーンさんと呼び合う間柄だったのに気が付いたら互いに呼び捨てになっている。 酒の魔力が成せる技だ。 「本当は蓮子の家に泊めてもらうつもりだったんだけどつい調子に乗って飲みすぎちゃって」 おい宇佐美。お前まさか家に泊めるのが嫌で俺に押し付けたんじゃないんだろうな。 心の中で罵詈雑言を浴びせる。心の中なのは目の前に本人がいないことと実際に口に出したらぶっとばされることに起因する。 自分でもはっきりとヘタレだと分かる思考にちょっとだけ凹んだ。 「でも、今日――あ、もう昨日? 兎に角楽しかった。まさか烏龍ハイを烏龍茶で割って飲む人がいるとは思わなかったわ」 また嫌なところを突いて来る。 酒の弱さには定評がある俺だった。調理酒のアルコールが完全に飛んでいない料理で顔が真っ赤になったことがあるほどだ。 別に弱くても問題ないとは思っているが、指摘されればむっとする。返す言葉は若干苛立っていると思う。 「うるさいな。あれでも俺にとっちゃきついんだ」 「下戸って大変ねぇ」 「……そうだな、お前みたいな飲兵衛の後始末の役割が必ず回ってくるからな」 「じゃあいいわよ、無理におんぶなんてしなくても」 「馬鹿言え、さっきまでぐーすか寝てたくせに。つーかお前酒が身体に来るくせに思考はまともなのな」 「へっへー、そのおかげで今私は○○の背中の広さを意識してドキドキしてるぜー」 「前言撤回、いいから寝てろや酔っ払い」 歩く。俺のアパートが見えてきた辺りでもう一度道を聞いた。もう少し先らしい。 「ねえ」 「あん?」 「――好き」 その言葉は、やたらとはっきりとした音として耳に入った。 酔っ払いの戯言として片付けることの出来ない、切実な声のように聞こえた。 俺は答えない。どう返してやればいいのか分からない。 「……なあ、ハーン」 沈黙に耐え切れずに何かを口に出そうとした。 「……うぅ」 「……ハーン?」 吐かれた。 あんまりだと思った。 ーーー 吐瀉物を頭から被った状態で道を歩いていけるほど神経が太い訳でも無いので、一度アパートに帰ることにした。 女性を連れ込む経験なんて初めてだが緊張なんてしなかった。大義名分があると人は大胆になれるものだ。 ハーンを下ろし、口の中をゆすがせてからベッドに横たえる。 「○○……本当にごめん」 「あー、もう過ぎたことだしいいって。もう面倒だから今日は泊まっていってくれ。宇佐美が怖いから何もしないと誓うさ」 「ヘタレー」 「叩き出すぞ」 「あはは……いいから頭洗ってきなさいって。臭い付くと大変よ?」 「へいへい」 ハーンに背中を向けて部屋から出ようとする。 「○○」 呼び止められた。立ち止まって「何?」とたずねる。 「あのね、さっきの言葉、忘れて欲しいの。正直酔ってたんだと思う。これからはお酒控える事にするわ」 「……ああ」 それから改めてシャワーを浴びて頭を洗う。 思い出すのは先程のやりとり。 「好き、か……」 忘れていて欲しかったのなら、何もなかった事にしていればよかったのだ。 自分はどうだろう、と自問する。 好きと言われてすぐに返事を返す事が出来なかったのが、答えなのだと思う。 彼女にはそれが分かっていた。だからそれを無かったことにしようとした。 あの時の出来事を無かったことにして、続いたはずの今までどおりを継続しようとしているのだ。 それもまた、無理な話だ。 交流が浅いとはいえ、マエリベリー=ハーンという女性と話すのは中々に楽しかった。 でも、お互いの気持ちに気付いてしまった後で『今までどおり』でいることができるのだろうか。 分からない。 何だか良く分からない気持ちに駆られて、シャワーの勢いを強くした。 それで、何かが流れ去るものだと信じて。 ーーー 何時もの何倍も時間がかかった風呂から上がり、部屋を覗くと、ハーンはベッドから上体を起こして窓の外を見ていた。 このアパートの窓から見える夜景は街灯がもろに差し込んでくる関係から風情が台無しであるという専らの評判で、俺なんかは四六時中カーテンを閉め切っている。 彼女は、そのカーテンを開け放して、ただ真剣に外を見ていた。 その横顔に、どきりとする。 「何か、面白い物でも見えるのか?」 誤魔化すように、そうたずねる。 「んーん、何も」 「そうか」 台所に戻って、番茶を入れる。湯飲みなんて物は無いからコーヒーカップだが、それ位は我慢してもらおう。 二つのカップを持ってまた部屋に戻ると、ハーンはまた外を見ていた。 「面白いか?」 カップの片方を差し出しながら、そう聞く。 「面白いわ、凄く」 カップを受け取りながら、ハーンはそう答えた。 カップを口につけて、すぐに離す。どうやら猫舌らしい。冷ますために息を吹きかける作業に専念している。 「なあ、ハーン」 ハーンの動きが、止まった。 話を蒸し返そうとしているのが分かったらしい。 「今、お前に好きって言われても、俺は多分『YES』とは答えられないと思う」 「……」 「でも、さ。相手の人となりが分からないうちは好きにも嫌いにもなりようがないし、お前のことは嫌いじゃない」 「そういう下手な慰め、止めてよ」 「慰めでもなんでもないさ。つーか今回はお前が早まりすぎなんだって。俺達見知ってからまだ三回しか会ってないんだぜ?」 ハーンの目線が俺に突き刺さる。何かを期待している目だった。 その何かの正体を、多分俺は知っているのだけれど。返す答えは若干ずれているのだろう。 「だから、さ。俺はお前をもっと知りたい。お前のいい所も悪い所も知りたい。そうすればきっと、もっとお前を好きになれると思う」 好きだと言ってくれる人を無碍に扱いたくは無い。 だから――歩み寄ろうと、そう決めたのだ。 「と、言う事でだ。お友達から始めませんか? メリーさん」 「……ふふ、そうね。○○君、これからもよろしく」 「こちらこそ」 かつん、と番茶の入ったカップが重ねられる。 これから俺はきっと、意識して彼女――メリーを好きになっていく。 でも、そんな関係だってきっと悪くはない筈だ――再び番茶に息を吹きかけはじめた彼女を見ながら、そう思った。 11スレ目 820 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「○○。突然なんだけどさ、初詣行かない?」 俺が紅白歌合戦を見ながら大晦日を静かに過ごしているときだった。ハーンから携帯に電話があったのは。話しを聞くと、どうやら宇佐美は帰省して県外に行ってまったらしく、帰省しないハーンは暇に耐え切れなくなったらしい。要するに暇潰しに付き合えという事だ。断る理由も無いので二つ返事で了解して、ハンガーにかけてあったコートから適当に取って羽織ると雪がチラつく外へ繰り出した。 神社へ続く夜の街を歩く。神社に近づくにつれて林檎飴やたこ焼き等の食べ物を扱う出店の匂いが鼻をくすぐり、人ごみは密度を増して行く。ふと目を離せば共に来ている人を見失ってしまう。携帯電話の規制がかかる時間帯と重なる今の時間は、合流のための連絡をとる事すら困難になる。だからはぐれないようにハーンと手を握り合うのは不可抗力であって決して変な事ではない。恥ずかしくなんて── 「えいっ」 突然、声と共に頬を指で突かれて現実に引き戻された。頬を突いたハーンの顔を見ると、まるで風船みたいに頬を膨らませ「無視するな!」と怒っていた。 「ごめん。少し考え事を……な」 「考え事?良かったら教えてくれないかしら?」 「後で覚えてればな」 「えー。……まぁ、いいけどね」 言えるわけない。考え事なんて口から出た咄嗟の嘘なんだし。 好きな女……お前の手を握ってて思考が塗りつぶされてるなんて言えるとしたら余程の度胸がある奴か、それともただの⑨だよな。 ─── 「ところでさ」 「何だ?」 賽銭箱まで、30メートルぐらいの距離でメリーが前を向いたまま再び話しかけてきた。 「○○は何をお願いするの?」 「あー、そういえば特にこれっていう願い事は考えて無かったな」 「本当に?」 信じられないという顔でハーンは俺の方を向いた。 そんな顔されても、本当に考えていないのだからその顔は勘弁して欲しい。 「ここは地主神社よ?大国主命。縁結びの神様が祭られてる場所っていう事ぐらい知ってるでしょ?」 「縁結び、か」 ああ、成程。だからさっきハーンはあんな顔したのか。 そういえばハーンも年頃だし縁結びとかその手のものに興味あるのは当然だよな。 ガラでもないが、ハーンとの縁結びでもお願いしてみるか? 「じゃあハーンは誰か狙っている人でもいるのか?」 「……一人だけね」 そう言って少しだけ俺の手を強く握ってきた。 「ハーン?」 「○○は誰かいるの?狙ってる子」 「俺も一人だけ……いるな」 ハーンの手を俺も少しだけ強く握る。すると指と指の間にハーンの指が入ろうとしてきたので、隙間を開けてそれを受け入れた。 ……何やってんだ俺。 「ハーン。あのさ」 「何?」 「男ってのは馬鹿だからさ。そんな事やると勘違いするぞ?」 微かな期待が心の底から湧いてくる。もしかしたら、ハーンの心の中にいるのが自分ではないかと。 だが、まだあわてるような時間じゃない。そう心で言い聞かせ、気持ちを落ち着かせようとしたが。 「勘違いじゃなくて……本気にして」 そんな必要は、無くなった。 新ろだ13 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ぐあー…」 鏡に向かって既に半時。そう、既に半時も経っているのだ。分に直して30分。世界一長い3分間を戦うウルトラマンだってとっくに怪獣を倒しているはずの時間だ。 だというのに、俺はまだネクタイという怪獣を倒せないで居る。 「ダブルノッチってなんなんだよ…」 生まれてこの方、ネクタイというものなんぞ身につけたことは無かった。いや、本当は昔一度だけ身につけたことはある。あるのだが、たったの一度だ。それも数年前の話で、そんなに昔にやったことを覚えている方がおかしいのだ。 「貴方はスリムだから、ボタンダウンと合わせるとかっこいいわよ」と言った奴を思い出して、臍を噛む。こんなことになるなら別のシャツにするべきだったのだ。そうすれば芋蔓式にダブルノッチなどと言うネクタイの締め方をする必要もなかった。 しかし悔やんでみても、時既に遅しである。時計に目をやると8時を大きく回っている。 こうなればもう仕方ない。諦めも大事なのだ。男たるもの、時には耐え難きを耐え、涙をこらえて恥を晒さねばならない時もあるのだ。 「はぁ……」 大きくため息を一つ吐き、自室のドアを開いた。途端に大きな笑い声が迎えてくれる。まるで俺が部屋を出るのを見計らったかのようだ。一等大きな声で笑うのは友人の●●だ。目の端に涙さえ溜め、アホ面を晒しながら大声で笑っている。その彼と顔を見合わせつつ、やはり笑い声を上げるのは宇佐美蓮子。驚くべきことに●●の恋人である。彼女に言わせれば、どう見てもただの馬鹿にしか見えない●●もハンサムに見えるらしい。恐るべきは恋の病か、乙女心か。 そして人目憚ることなく笑う二人より幾分抑え気味に、しかし抑えきれない笑みをこぼすのは、マエリベリー・ハーン。「やーいヘタレ!」だの「よっ、今世紀最大の不器用男!」だの野次を飛ばす外野を極力無視しつつ、彼女に声をかける。 メリーはくすくすと口の前に拳を置いて笑いながら、ゆっくりと腰をあげる。 「はいはい、じゃあ私が結んであげるわね」 「…頼む」 ぽん、と彼女が俺の肩を叩いたのを合図に、今だ笑いつづける●●達に背をむけ自室に戻る。何か、伏字にするべき淫猥な単語が聞こえたような気もするが、スルーしておいた。反応してしまうのは、彼らの思う壺のような気がする。 バタンとあまりにも陳腐でありふれた音を立ててドアが閉じる。それと同時に、あれほどうるさかった●●達の声も聞こえなくなった。 「…………」 よくよく考えれば。 ゆっくりと俯きがちだった視線を上げる。すると、小首をかしげて視線を俺に向けるメリーの姿が視界の中にすっぽりと収まる。「どうしたの?」と言わんばかりの彼女は、もうすぐ俺の首に巻かれるであろうネクタイを両手に持ったまま、棒のように突っ立っている。 よくよく考えれば。今この部屋には俺とメリーの二人きりなわけだ。彼女と俺の関係は他人に言わせれば『恋人』というもので、またその年齢を考えれば一つの部屋に二人きりと言う状況も全く珍しいものでは無いだろう。今までメリーと付き合ってきた中で今と同じような状況に陥ったことは少なくない。 だがそれでも。 「…恥ずかしい」 率直に気持ちを表現したその言葉をメリーはどう受け取ったのか、一度大きく笑うと俺の首にネクタイを巻きつけた。胸元に伸ばした手を止めることなく、その口を開く。 「あのね」と教師が教え子に諭すように、あるいは母親が聞き分けの無い子どもに。 「今日びネクタイなんて結べなくてもいいのよ? こんな首吊り紐みたいな…」 「そんな事言う割には手馴れてるじゃないか」 「だって練習したもの」 結び終わったネクタイから手を離すと、メリーは顔を上げた。明るい笑顔だ。 部屋に入ったときと同じように俺の肩に手を置く。そして爪先立ちにその唇を俺の耳に近づけ、 「貴方のために」 と囁いた。 思わず吸い込んだ息を吐き出せない。どんどん顔が赤くなるのが分かる。間違いなく今の俺は呆けた表情をしているだろう。そんな俺を知ってかしらずか、メリーは構わずドアに向かって歩き出すと、突っ立ったままの俺を呼んだ。これ幸いとばかりに胸に溜まったままの息を吐き出して、振り向く。 ドアと、俺と、その間にメリーが居た。手を上げる余地すらない、ほとんど密着と言っていい距離。身じろぎ一つすれば、身体が触れ合ってしまうだろう。 「メ」 思わず声をあげる俺の唇にメリーはその人差し指を置いて、言葉を遮った。唇を指で塞がれたまま何も言えない俺の瞳を正面から見据えると、 「あのね、貴方はネクタイなんか結べなくていいの」 と言い放った。メリーはそのまま空いている手でドアノブを捻る。驚くほどゆっくりとドアが開いてゆき、俺から視線を外さない彼女の後ろに●●と宇佐美の姿が見て取れた。 一気になだれ込む雑音にあわせるようにまたメリーが俺の耳元に顔を寄せる。すぐに身を翻し小走りに部屋から出て行くメリーは、 「私がずっと結んであげるから」 そう言っていたような気がする。 (了) ―― チルノの裏 ―― 書いてる最中に聞いてた音楽 曲名でググれば聞けると思います Really Love ~あなたの夢の中で~ Come Back To Me Deep with in L.O.T.(Love Or Truth) Pop’latinum Top ~PSYCHO MAINTENANCE~ ALIVE ~Wall5 Remix~ CANDY POP feat.SOUL’d OUT ~Reggae Disco Rockers Remix~ Still Alive Billy Herrington Is STILL Alive ! Come on Pants ―― 歪みねぇな ―― 新ろだ397 ─────────────────────────────────────────────────────────── お日様が沈み、月や星が顔を出す時間。 俺とメリーは小高い丘に居た。 「綺麗だな」 「そうね、蓮子も連れてくればよかったわ」 見上げれば、空を覆いつくす星の大群。 「いや、あいつがいると、この星空も台無しだ」 「ふふふ、そうね」 あいつが、蓮子がいると、何かの拍子に長ったらしい物理の講義を受けることになってしまうかもしれない。 そうなったら、この星空を楽しめなくなる。 星を楽しむのは静かな時が一番だ。 「それにしても、寒いな……」 「そうね。三月とはいえ油断したわ」 既に時は三月。春を告げる何かが出現しても良い季節だ。 だというのに、冬のような凍える寒さ。 今までに暖かくなってきた分余計に寒い。 「まいったなぁ。コートを持ってくればよかった」 「本当ね。はぁ……寒い」 丘が他の土地より高いところにある分風も強い。 「なんなら、俺が暖めてやろうか?」 もちろん冗談だ。 そんな度胸はない。 当然、メリーも一蹴 「そうね。お願いするわ」 しなかった。 「は? おい!?」 そう言って俺の胸に飛び込んできた。 不意に掛かる力にバランスが保てず、体勢を崩してしまう。 「あら、女の子一人支えられないなんて情けないわね」 「返す言葉もないです」 手の中に女の子が一人。 暖かくて、柔らかくて、小さくて。 そして、か弱い女の子が手の中に収まっている。 動悸の勢いが段々と激しくなっている。 そりゃそうだ。 誰だって好きな子を抱きしめていたら心臓がバクバクする。 「そ、そうだメリー! その、境界とやらは見えたのか!?」 「ううん、まだよ」 首を横に振るメリー。 動くたびに髪の毛が顎に当たってくすぐったい。 「じゃ、じゃあ速く見つけなきゃ! ほら、急ごう!」 「いやよ」 「へ?」 一瞬だけ頭が真っ白になった気がした。 「だって、こうしていたいんだもの」 「な!?」 断言できる。 今の俺の顔はほおづきより赤い。 「ねぇ○○。私はあなたが好き。 だから、こうしていたいの。 あなたはどうかしら?」 「!!」 予想外の、というより予想できない言葉。 メリーが俺のことをすきだと。 「ねえ、どうなの?」 決まってる。 答えなんて決まってるじゃないか! 「俺も、お前が好きだ」 言えた。 出会ってからずっと胸の内に封印していた言葉。 言いたくても言い出せなかった真実。 それを、今、 「ありがとう。これからもよろしくね、○○」 言えた。 「ほら、見て○○。境界の向こうで誰かが手を振ってるわ」 「あの、俺には見えないんだが」 「いいのよ! とにかく誰かが私たちを祝福してくれてるのよ!」 「そう、か」 俺には拝むことの出来ない境界の向こう側。 見ることの出来ない場所だけど、確かに誰かが祝福してくれているような気がした。 end ちらしの裏 蓮子の次はメリー。 新作で蓮子の出演に期待。出ないだろうけど。 ちらしの裏 新ろだ417 ───────────────────────────────────────────────────────────
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【元ネタ】都市伝説 【CLASS】アサシン 【マスター】 【真名】メリー 【性別】女性 【身長・体重】139cm・34kg 【属性】中立・悪 【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運E 宝具C 【クラス別スキル】 気配遮断:B サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも、 目視以外で発見することは非常に難しい。 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 【固有スキル】 魔術:C+ 伝達にのみ特化した魔術。 ガラスに浮かび上がる血で書かれたメッセージ、鳥獣による伝言、 電話線が切れてるのに鳴る電話等の連絡困難な対象への意思疎通が可能。 このランクになると相手の顔さえ分かっていれば伝達可能。 追撃:D 離脱行動を行う相手の動きを阻害する。 相手が離脱しきる前に、一度だけ攻撃判定を得られる。 仕切り直し:D 戦闘から離脱する能力。 【宝具】 『メリー・メッセージ(もしもし私メリーさん)』 ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:10~99 最大捕捉:1人 段階を踏んで完遂させる儀式魔術の一種。 何らかの連絡手段を用いて対象に宝具の真名を聞かせることで、 その対象の周囲の転移可能な位置を把握する。 続けて、「自分はどこにいるか」を聞かせることで、 その通りの場所へと転移することができる。 その転移先はかならず相手の認識の外になる。 通常なら3回ほどの連絡で対象の背後を取れるが、 距離や障害によって、最大10回の連絡が必要。 『楽しい楽しい人形遊び(メリー・メリー・ドールズゲーム)』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0~99 最大捕捉:1000人 メリーさんとその被害にあった者達の怨念がこめられた呪いの人形。 この宝具はメリーさんが消滅するのと同時に現界、発動する。 人形の四肢は呪いが発動したと同時にレンジ内の何処かに展開され、 72時間後、人形の状態がメリーさんを消滅させた者達にそのまま反映される。 3つ目までは簡単に見つかるが、4つ目を通常の手段で見つけるのは不可能である。 【Weapon】 『無銘・包丁』 日本国内で女性が最も良く使ったであろう武器。 【解説】 都市伝説の一種。展開はさまざまあるが、 主に『捨てられた人形の復讐』と、『少女の呪い』に二分される。 前者は、電話等の連絡法を通して徐々に自分が近づいている事を伝え、 最後に相手の背後に立った後に、相手を刺し殺す、という物。 後者は、四肢のない人形を渡し、その四肢を集めなければ、 見つけられなかった箇所をもぎ取られる、という物である。 近代創作においては『いじめにあった少女の復讐』とされたり、 健気でどこか抜けたキャラクターとして描かれることもある。 【イメージイラスト】 メリーさん① メリーさん② メリーさん③ メリーさん④ 【出演SS】 嘘予告・冬木市聖杯大戦の章
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レトロっぽいの好きならメリーの現代ストイック、モダンギャルドをオススメします。 迷わずメリーおすすめします。 シドの憐哀が好きなら曲的にはかなりいけると思います。 けど、声が独特な感じなのでそれが問題です…。 メリーはガゼ、ドレミが聴けるなら技術的に問題無いと思います。ただガラの声は好き嫌いが別れるので音源買う前に一度視聴してみると良いと思う。 昭和歌謡、レトロな感じが好きならメリーお勧めします(・∀・) メリー、ぱっと見怖いとかで聞かない人多いけど 歌詞の切なさと、その切なさを更に引き立てる ガラの歌い方がライヴで聴いていても感動する。ライヴでも聴かせる系と暴れる系で分かれるから楽しめるし。 ただライヴパフォーマンスで引いてしまったら 無理かもしれない…(´・ω・`) 聞いた事ない人には 「はいからさんが通り過ぎた跡…」か 「モダンギャルド」 「nuケミカルレトリック」 をお勧めします。 刈が気になっているのですが、しっとりしてるのもガンガンしてる曲も入ってるアルバムって何かありますか? →メリー⇒モダンギャルド、個性派ブレンドクラシック(でもどちらかというとバラード多め) ガンガン静かバランス良く決めてみた。 刈アルバムで「モダンギャルド」か「現代ストイック」 どっちがお勧めでしょうか? →モダンギャルド メリーのケミカルレトリックの中でいい曲を教えて下さい。→首吊りロンドと溺愛の水槽はスタンダードにいいとオモ。 あと漏れは哀しみブルートレインがスチだよ。 現代ストイックは歌謡曲っぽいのと変態っぽいのが入っててオススメ。でも入手するのが難しいかも… 自称レトロックでメロディは綺麗だと思います。 アルバムでは現代ストイック、PEEP SHOWが特にオススメです。 『nuケミカルレトリック』入りやすいと思う リフレイン、哀しみブルートレインは凄く聴きやすいし レトロなものから激しいものまでバランスがいい 聴きやすさ重視なら『PEEP SHOW』もいいかな 高層ビルの上でラストダンスって曲が個人的にオススメです 『PEEP SHOW』はほとんどの曲が聴きやすいからとっつきやすい 【公式サイト】 http //www.merrymate.jp/ 試聴× メリービクター公式サイト(試聴○) http //www.jvcmusic.co.jp/merry/ 【音源】 現代ストイック モダンギャルド nuケミカルレトリック はいからさんが通りすぎた跡... 個性派ブレンド クラシック~OLDIES TRACKS~ PEEP SHOW 初回限定盤 PEEP SHOW 通常盤 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る